じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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2009年版・岡山大学構内でお花見(60)変わり咲きネジバナ(その2)

 6月24日の日記掲載の「変わり咲きネジバナ」の続編。前回も述べたように、変わり咲きとは言っても、もともとネジバナの花の形は多様であって1つたりとも同じ形をしていないので、これらがごく普通の咲き方であると言えないこともない。



6月29日(月)

【思ったこと】
_90629(月)[心理]熱中と離脱のスパイラル(3)

 連載の3回目。今回は、

●「スパイラル」というとらえ方をすることでどういうメリットがあるのか。

について考えてみたいと思う。

 昨日の日記で、台風(熱帯低気圧)を例に挙げて説明したように、何かの現象が発生し、かなりの規模に発達し、一定期間その規模を持続するという場合には、
  1. 発生するきっかけ
  2. 発達する条件
  3. 発達をささえる力
というように、少なくとも3要素に分けて考える必要がある。例えば、山登りに熱中している人が居た場合、その人が山登りをするようになったきっかけと、山登りに行くことができるという条件、そして、何度も山登りをすることを強化している随伴性は別々に考えるべきである。

 「スパイラル」が想定されるのはこのうちの3番目、つまり、「やってみる」という段階から「その行動を続ける」という段階に移行した際に、それが単純な「行動→好子出現」というような単線的な行動随伴性で強化されているのか、それとも、随伴性が螺旋状につながっていくような展開、あるいは手段・目的関係のような入れ子構造を持っているか、複数の行動が相互に連携しながら強化されている状態に移行しているのかといったことを見極める上で、重要な枠組みを提供できるのではないかというのが私の考えである。

 あることに熱中し長期間はまり込む場合でも、そこから離脱する場合においても、当人は必ずしもその原因を同定できていないということが多いように思う。「なぜそれに熱中しているのですか?」と尋ねても「急に面白くなったから」という答えだけしか返ってこない。「なぜそれをやめてしまったのですか」という問いに対しても「つまらなくなったから」、「飽きたから」、「くたびれたから」という感想しか返ってこないことが多いのではないだろうか。しかしそれらは、真の原因の報告とは言い難い。熱中している時や離脱した時の気分、情動の状態を述べているに過ぎないのである。

 いっぽう、行動分析家であれば、熱中している行動はそれが何かによって強化されているからであり、離脱した場合も、その行動が弱化もしくは消去されたからであると考える。しかしその場合、単線的な「行動→結果」の随伴性だけで把握するのではなく、個々の行動の相互の連関や循環型の強化に注目したほうが、より生産的であり、行動の予測や改善に役立つのではないかと私は考えている。




 「スパイラル」を想定することは、行動の改善や、問題行動の克服にも大きく役立つはずである。

 いったん始めた行動がうまく持続しない時を考えてみよう。強化原理を単純にあてはめれば、うまく持続しない行動は、賞賛やポイント付与などの付加的な好子出現で強化してやればよいということになる。いっぽう「スパイラル」を想定した場合は、付加的な強化よりはむしろ、その行動自体が自走できるような、つまり自然の随伴性のスパイラルに乗るように工夫する。例えば、ピアノの練習が長続きしない場合、ピアノを練習したらご褒美を与えるというような強化をするのではなく、上達とともに美しいメロディを弾けるようになるように(メロディ自体によって弾く行動が強化されるように)練習曲を配置していくことが望まれる。私自身なども小学校の頃、バイエルからブルグミュラーの練習曲を習っていた頃は、ピアノの練習を結構楽しみにしていたことがあった。しかし、ハノンなど、聞いていてもあまり楽しくないような練習曲ばかりを弾かされているうちにだんだん興味を失ってしまい、中学以降は習うのをやめてしまった。ピアノの上達のためには邪道であるかもしれないが、自分の弾きたい名曲中心に練習を重ねていけば、もっと熱中したのではないかと思っている。

 問題行動が頻発しているような場合にも、「スパイラル」を想定することは大いに役立つのではないかと思う。強化原理を単純にあてはめるならば、当該の問題行動を弱化または消去すること、あるいは、その問題行動と同時には起こりえない別の行動を強化するというような方法が効果的であると言われているが、「スパイラル」を想定した場合は、あくまで問題行動がどのようなスパイラルで強化されているのか、あるいは、どのような関連諸行動と連携して強化されているのかに注目し、その悪循環や連携を断ち切ることに主眼を置く。アルコール依存、喫煙などの改善には大きく役立つはずである。


 次回に続く。