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このところ、ウォーキングの最中に津山線の観光列車「SAKU美SAKU楽」にしばしば遭遇する。14時頃からウォーキングに出かけるため、半田山植物園付近で、「SAKU美SAKU楽1号」とすれ違うことが多いが、見飽きることがない。 |
【連載】チコちゃんに叱られる!「医学博士 元東大病院医師」による「夏休みの宿題がギリギリになるのはなぜ?」についての胡散臭い説明を検証せずに放送したNHKを批判する(1) 昨日に続いて、7月22日に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
放送では、「夏休みの宿題がギリギリになるのは、人間はこれからやること7つしか覚えられないから」と説明され、番組スタッフがちよだプラットフォームスクウェアを訪れ、脳の構造に詳しい「医学博士・元東大病院医師」のM博士のお話を伺うシーンから始まった。 M博士は、まず、 実は人間は目先のことは7つくらいしか覚えられない。脳内には優先順位があって、夏休みの宿題をやろうという予定はなかなか7つの中に入ることができない。そのため夏休みの宿題はギリギリになってしまう。と説明された。続いて、iStok提供の動画により、人間の記憶には、
夏休みの宿題がギリギリになるのは、「きょう夏休みの宿題をやらなければならない」という記憶が短期記憶に入ってしまうから。自分がこれからやろうとすることのリストは短期記憶に入る。確かに、昨日やおととい、何をしようと思っていたのかはいちいち覚えていない。脳にも記憶できる限界があるので、夏休みの宿題をやるという記憶は短期記憶に振り分けられる。しかし、短期記憶には「一度に覚えられるのは7つほどが限界」という弱点がある。この弱点によって、夏休みの宿題はギリギリになってしまう。夏休みが始まった頃は、短期記憶に納められている「きょうやること ザ・ベストセブン」には、「朝ごはんを食べる」、「歯磨きをする」、「ひまわりに水をやる」といった、いますぐやらなければならないことがランキング上位を占め、そして「セミ取りに行く」、「ゲームをする」、「チコちゃんを見る」がランクインする一方、「夏休みの宿題をやる」は「あしたでもいいや」、「あさってでもいいや」という気持ちが働いてランキングは下位になる。また短期記憶には楽しいことを優先してしまう性質があり、新たにそのような記憶が上位に割り込むと、締め切りが先で楽しくない「夏休みの宿題をやる」という記憶はランキング外となり、宿題をやらずに1日を終えてしまう日が続く。しかし、夏休みが終わるギリギリになると、他の遊びの予定もなく、締め切りが迫ったことで、それまで優先順位下位だった夏休みの宿題関連のことが上位を独占し、宿題をやっていないことで焦る。と説明された【趣旨を変えない範囲で改変あり】。なお、これに関連して、「人間は時間に余裕があると目いっぱい使ってしまう」現象は「パーキンソンの法則:人間は時間に余裕があると目いっぱい使ってしまう」と呼ばれており、他には、1時間早起きしても結局家を出るのがギリギリになるという例が紹介された。 ここまでのところでいったん私の感想・考察を述べさせていただくが、まず、上掲のように、記憶に少なくとも2種類があること【←実際はもっと複雑】、短期記憶に7±2というマジカルナンバー (magical number)があることは古くから知られていることであり、そこまでは異論はない。しかし、人間や人間以外の動物は、いちいち短期記憶のリストを参照しながら優先順位の高い順に行動しているわけではない。上掲の例で、「きょうやること ザ・ベストセブン」に、「朝ごはんを食べる」、「歯磨きをする」、「ひまわりに水をやる」などが挙げられていたが、これらは短期記憶とは関係がない。どの行動が起こるかは、行動が起こる文脈、弁別刺激の有無(習慣化された規則的な行動連鎖を含む)、動機づけ、そして、過去にそれらの行動がどの程度強化されたのかという、強化履歴などによって決まってくる【←これはあくまで行動分析学的な考え方だが、それが唯一無二の説明であると主張するつもりはない。念のため】 昨日やおとといに何をしたのかという過去の出来事は短期記憶によって想起されるかもしれないが、これから先にやることは短期記憶ではない(もし短期記憶が関わるとしたら、スーパーに買い物に行く際、お母さんから頼まれたモノを、メモせず、記憶するといった場合に限られる。また直前に何をしたのかという記憶によって同じ行動のムダな繰り返しを避けるという場合もある。←これが錯乱してくると認知症)。 毎朝、勉強机の前に座れば、机上には夏休みの宿題のドリルや自由研究についての資料が積んである。これらを目の前にして「宿題をやろうという予定」が突然記憶喪失してしまうというのは、あり得ないことだ。要するに、短期記憶のランキング外になったからやらないのではない。やるべきリストとしてはちゃんと記憶されており、目の前にも課題が積み上げられているにもかかわらず、それをちゃんと遂行できないのが原因なのである。 ここでいったん放送内容から離れるが、今回の解説者は「博士・元東大病院医師」という立派な肩書きで紹介されており、取材も千代田区の貸会議室のようなところで行われていた。これでは、何を研究している先生なのか、いまどこに所属しておられるのかが全く分からない。 ということでネットでお名前を検索させていただいたところ、以下のことが判明した。
なおM博士についてネットでさらに調べたところ、「加圧国際大学」という名前がヒットしたが、存在がイマイチ分からないし、告発サイトも複数あった。また、「加圧トレーニング学会」というのも存在し、M博士は理事をつとめられておられるようだが、「夏休みの宿題」テーマとはどう見ても関係が無さそう。さらに、その学会の役員一覧では、M博士の所属は「一般社団法人能力科学研究所」となっていたが、ネットで検索した限りでは、つい最近設立された沼津市にある法人であるということで、基本情報は殆どが空白となっていた。念のためお断りしておくが、私は別段、M博士ご自身を批判するつもりは全く無い。M博士の御著書や講演活動の内容は全く存じていないが、仮に科学的根拠に乏しいようなお説を提唱されていたとしても、社会的に許容される範囲であれば(それを信じた人たちがマインドコントロールされて高額な教材などを買わされるといったような被害が出ない限りは)、どうぞご自由になさってください、としか申し上げるつもりはない。しかし、受信料を取って番組を制作しているNHKは、それでは済まされない。「チコちゃん」が娯楽番組であるといっても、子どもの視聴者も多く、放送内容が与える影響は無視できない。話題性・意外性を誇張する余りに特定の説だけを真実であるように紹介したり、それを唱える人のお先棒を担いだり、結果として御著書の宣伝につながるような無批判的な取り上げ方をすることは止めてもらいたいところだ。(少し前に取り上げた、トンデモ進化心理学や、科学的根拠に乏しい「説明」も同様。) 最低限、別の立場の研究者から、説明内容についてセカンドオピニオンを求める必要がある。 次回に続く。 |