じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 昨日の日記で、岡山県の「プレミアム付食事券」の販売に関連して、スシローとくら寿司の話題を取り上げた。
 最近これらの寿司店で気づいたこととしては、
  1. ウニの皿が姿を消した。
  2. くら寿司は以前から、会計の完全機械化が実施されており、自動的にお皿の枚数がカウントされ、店員さんと全く対面せずに会計を済ますことができていたが、最近、スシローのほうでも、自動的にお皿をカウントするシステムが導入されている。スシローの場合、いくつかの価格帯があるが、お皿の色、もしくはお皿に取り付けられたICチップか何かで、お皿を手に取る時点でカウントされているようだ。


2022年8月23日(火)



【連載】チコちゃんに叱られる!「ファンになる心理」

 8月19日に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. 夏に海水浴に行くのはなぜ?
  2. 自由研究ってなに?
  3. なぜ誰かのファンになる?
  4. 数字はなぜあの形?
  5. スタジオ間違い探し
  6. 鼻くその上品な呼び方
という4つの疑問と2つの話題のうち、3.について取り上げる。

 3.の「ファンになる心理」については、放送では「『自分はこれでいいんだ!』と思えるから」と説明された。ファン心理を長年研究している小城英子さん(聖心女子大学人間関係学科)によれば、ファンになる仕組みは、
  1. 好きになるきっかけ:対象者のパフォーマンス、キャラクター
  2. ハマっていく:ファンの仲間との交流、自分が確立されていく(対象者の生き方についていきたい)。
といった二段階となっている。「自分はこれでいいんだ!」というのはどうやら2番目の段階をさしており、要するにハマっていけばいくほど仲間ができて、対象者が示すお手本・正解に導かれることで「自分はこれでいいんだ」と強く思うことができる、と説明された。

 チコちゃんの心理学関連の話題では、このところ、トンデモ「進化心理学」やら「医学博士 元東大病院医師」による胡散臭い「説明」が続き、今回も「トンデモ」が飛び出すのではないかと身構えていたところであったが、出演された小城先生は、オーソドックスな社会心理学的な手法に基づき、手堅いご研究を重ねておられるようで、他にも朝ドラ、民放ドラマ、大河ドラマの分析とかアメリカと韓流のドラマの違いなどについても興味深い研究をしておられるようであった。もっとも、今後のご研究の発展のため、以下の点を敢えて指摘させていただく。

今回の放送でも「2018年度 聖心女子大学の大学生336人を対象に実施された調査」の結果が紹介されていたが、女子大生、それもご自身の所属大学での受講生だけから得られた結果では、子どもや成人、高齢者におけるファン心理を分析することは殆ど不可能。研究資金が限られていて、かつ締め切りまでの時間的制約のある卒論研究や修論研究の場合はやむを得ないところもあるが、大学教員が調査研究を行うということであれば、安易に受講生を調査対象とするのではなく、きっちりと無作為抽出に配慮した上でサンプルを確保する必要がある。知覚や記憶の実験ならまだしも、社会心理学的なテーマではこれが必須である。
 なお、小城英子『ファン心理尺度の再考』(無料で閲覧可能)の中には、「調査対象者:男性95名,女性285名の計380名。18〜26歳で平均年齢は20.1歳(SD=1.1)であった。」という調査も含まれているが、これまた、男女の比率が偏っており、どこまで一般化できるのかは疑わしいところがある。じっさい、当該論文においても、
 本研究では一般の大学生を対象としているが,大学生は青年期前期に当たり,一般的にアイデンティティの確立が完了しつつある年代である。一方,アイデンティティを模索している思春期であれば,より不安定で,依存的である可能性がある。
 中年期や老年期であっても,それぞれに発達課題が異なることから,ファン心理との関連は青年期と共通しているとは限らない。中年期であれば人生の折り返し地点に立っており,残り人生に向けてアイデンティティの再構成が求められるし,老年期は社会的な引退や身体能力の低下といった課題に際してアイデンティティが揺らぐ可能性がある(上長,2016;清水,2008など)
という但し書きがついており、その後には「進化し続けるファン心理尺度」という考察もある。いずれにせよ、ある時代にある限られたサンプルから分析された結果が、他の世代や後の時代にも適用できるかどうかは、かなり疑わしい。




 本題から外れるが、少し前に、BS-PのNHK 映像の世紀プレミアム(9):

「独裁者 3人の“狂気”」 2022年8月7日放送

という番組を視聴したことがあった。取り上げられていたのは、ムッソリーニ、ヒトラー、スターリンという3人の独裁者であった。独裁というと、反抗勢力を徹底的に弾圧し、支配者への服従を強制する体制であるように思ってしまうが、そのような弾圧が行われるのは体制が確立した後のことである。これらの独裁者は当初は「天使の顔」をして現れ、熱狂的な支持者によって頂点に立つようになった。
 ちなみに日本では、太平洋戦争開戦当時、ムッソリーニやヒトラーのような独裁者と呼べる人物は現れなかったが、「極秘文書から見えた 新しい“山本五十六”」関連番組によると、軍縮条約や三国同盟、日米開戦を巡って、強硬派が勢力を増しており、ウィキペディアによれば、山本のは連合艦隊司令長官就任は采配・指揮能力を買われたものではなく、三国同盟に強硬に反対する山本が、当時の軍部内に存在した三国同盟賛成派勢力や右翼勢力により暗殺される可能性を米内が危惧し、一時的に海軍中央から遠ざけるためにこの人事を行ったという見方があるという。ということで、日本でも、ファン心理に似た熱狂的な勢力が開戦を引き起こしたと言えるかもしれない【「もし日本が太平洋戦争をしなかったら」、という興味深い動画がこちら(続編あり)にあった】。

 ちなみに私は、誰かのファンになったことは一度も無い。「ファンになる心理」を説明するためには、「ファンにならない心理」も説明する必要がある。それも「○○タイプの人はファンにならない」というような相関分析や解釈ではなく、予測や制御(影響)の力を持った研究が求められる。それによって、いま上に述べたような、熱狂的な政治勢力の台頭を阻止することもできる。

 次回に続く。