じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 ベランダで育てている鉢物が次々と開花し観賞のために室内に取り込んだところ室内が植物園のようになってしまった。写っているのは、上の写真が、アマリリス、エルサレムセージ、ハゴロモジャスミン。下の写真が、ヨウラクツツアナナス(3鉢)とソケイ。


2024年5月2日(木)




【小さな話題】性的虐待の原因は倫理観の欠如なのか?/轟木敏秀さんが提起した問題

 各種報道によれば、大牟田市の病院で、男性介護士ら5人が身体的な障害を抱える患者11人に下半身を触るなど性的虐待を繰り返していたことが分かった。病院は「職員の倫理観が欠如していた」として、2日、記者会見を開いて説明するとしているという。
 NHKの記事によれば概要は以下の通り【要約抜粋。文体の改変あり】
  1. 性的虐待があったのは、福岡県大牟田市にある「独立行政法人国立病院機構大牟田病院」。
  2. 去年12月に入院患者が「介護士の男性職員に下半身を触られた」と訴えたため、院内で調査を行ったところ、介護士と看護師の合わせて5人の男性職員が、体に障害がある入院患者の男女11人に性的虐待を繰り返していた疑いがあることがわかった。
  3. 病院では障害者虐待防止法に基づいて入院患者の住所地にある複数の自治体に通報し、調査を行った自治体は少なくとも男女6人について、性的虐待があったことを認めた。
  4. 病院は「職員の倫理観が欠如していた」として、2日記者会見を開いて説明するとしている。
  5. 病院は「多大なる不安やご心配をおかけしたことを深くおわび申し上げます。第三者委員会を立ち上げ、徹底した原因究明と対策を講じるよう進めています」というコメントを発表した。
  6. 大牟田病院は、全身の筋肉が萎縮する筋ジストロフィーなどの神経や筋肉の難病患者の専門的な診療などを行っている。

 この事件の詳細、事実認定、対策については、第三者委員会などで徹底的に検討されることになると思われるが、私が気になったのは病院側の第一声の中で「職員の倫理観が欠如していた」と述べていたことである。
 「倫理観」というのは美しい言葉であるが、行動の説明概念としては甚だ疑わしい。何か不正行為、汚職、犯罪などが起こった時に、なんでもかんでも「倫理観の欠如」と言ってしまえばそれで思考停止。対策のほうも「今後は倫理意識の向上に努めます」と言えばそれで終わってしまうことが多い。要するに、ある組織内での不祥事が起こった時に組織としての責任をはぐらかし、その原因を個人の倫理観に押しつけることで、組織としての責任を回避するためのツールとして使われているように思われる。

 「倫理観」とか「倫理意識」については、このWeb日記でも何度か取り上げたことがあった。ざっと検索してみると、
  • 2000年4月8日新首相の「心の豊かな美しい国家」論は性悪説なんだろうか/原則堅持型人間とモラル
  • 2000年7月9日『受験勉強は子どもを救う』か(12)「人間性」重視の入試は人間性の選別と否定につながる?
  • 2007年3月5日家庭ゴミのSA持ち込みはモラル低下か?
  • 2007年11月30日徴兵制を導入すれば若者は規律正しくなるか?
  • 2006年3月7日セクハラ等防止講演会“心に愛をはぐくむために”(前)
などがヒットした。

 ここで念のためweblio倫理観とは何かを確認してみる。【要約・抜粋】
  1. 倫理観(りんりかん)とは、倫理(人として守るべき善悪や是非の判断や判断基準)についての捉え方・考え方、を意味する語。倫理に関するものの見方。万人が同意する普遍的な善悪・正邪よりも、むしろ立場によって意見の別れる(対立が生じる)ような話題を扱う文脈で用いられることが多い。たとえば尊厳死の問題など。
  2. 倫理観の類語として「道徳観」や「モラル(moral)」「エシカル(ethical)」などが挙げられる。
  3. 「倫理」と「道徳」の違いは、一概には言えないが、現代における傾向としては、「倫理は《社会における善悪等の判断基準》」を、同じく「道徳は《社会または個人の正義にもとづく行為規範》」を指す語として区別される場合がある。とはいえ、「倫理(観)」と「道徳(観)」をほぼ同義語として区別なく扱う場合も多い。
となる。「倫理観が欠如していたので性的虐待が起こった」という説明は、裏を返せば「性的虐待はよくないことです」という倫理観を形成すれば解決できるでしょう、という意味にもとれる。過去日記にも書いたことがあるが、これは、人は誰にも見られておらず決して捕まることが無いという状況に置かれれば、自分の欲求を満たすために平気で悪いことをする、という性悪説的な考えに基づいているようにも見える。




 なお、今回の事件は「性的虐待」が認定されたということで、犯罪として捜査されることになるが、もしかするとその奧にはもっと根本的な背景があるかもしれないという気もする。それはこの病院が筋ジストロフィーなどの神経や筋肉の難病患者の専門的な診療を行っているということに関係している。
 相当昔のことになるが、轟木敏秀さんのWebサイトの中で、

マスターベーションについて

という記事を拝見したことがあった。難病で寝たきりになった人でも「...自分の性器も触れることもできないうえに、マスターベーションをしたい、性行為をしたいと思うことが頭から離れないからである。性欲はどのような状態や状況になってもなくならない。」というのは、若い男性であれば当然の根源的な欲求であるはずだ。なので、「介護施設・療養施設等においては、いかなる性行為も認められない」と綺麗事で済ますのではなく、一定の倫理基準を前提とした上で、可能な限り利用者の欲求に応えるような対策が求められる。以上はあくまで一般論であって今回の事件がこれに含まれるかどうかは全く分からないが、この際、轟木敏秀さんが提起した問題について、利用者本位で本音を語り合い、もっと真っ正面から取り組んで欲しいとという気持ちはある。

5月3日追記]
翌日の院長の記者会見は以下の通り【抜粋】
病院によりますと、虐待を行った男性職員は「通常の介助行為で、虐待にあたるとは感じていなかった」などと話しているということで、病院は、第三者委員会を立ち上げて原因究明を進め、再発防止策を講じることにしています。
川崎院長は、「性的虐待は夜間の時間帯が多く職員がそれぞれ単独で行ったとみている。入院患者をちゃん付けやくん付けで呼んでいたことも確認され、職員の倫理観が欠如していた」と述べました。
そして、院内の管理態勢に不備があったとして、
▽職員に対して、入院患者の人権を尊重した呼び方をするよう指導を徹底するとともに
▽虐待防止についてすべての職員を対象にした研修を行うことや、
▽複数人の介助や同性による介助を徹底することなどに取り組む方針を明らかにしました。

院内では、ほかにも身体的虐待や心理的虐待があった疑いがあるとして、自治体に通報したということで、これについても調査を進めるとしています。