【連載】チコちゃんに叱られる! 「指先と腕の錯覚現象」「直毛、くせ毛」についての少々胡散臭い説明
昨日に続いて、5月3日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- なぜ電車は曲がれる?
- なぜカッターナイフの刃がボキボキ折れるようになった?
- なぜ植物は声を出さない?
- こんなんのコーナー:「アリストテレスの錯覚」「2本の鉛筆が磁石のように離れなくなる錯覚」
- なぜ直毛の人とくせ毛の人がいる?
という5つの話題のうち、残りの4.と5.について考察する。
まず4.のコーナーでは2つの錯覚が紹介された。
- 人差し指と中指を交差させ、そのうちのどちらかの指の先をペンでつつくと2本のペンにつつかれたような感覚になる【アリストテレスの錯覚】
- 指を交差させているのに脳が指の交差を認識しなくなることが原因。
- 指を交差させないで2本の指のそれぞれの外側部分を2本のペンでつつくと、ペンは2本であると感じる。
- 指を交差させて、それらの内側部分(交差させない時の外側部分)を1本のペンでつつくと、離れた場所のそれぞれにペンがあたったと錯覚し2本であるように感じる。
- 2本の鉛筆をそれぞれの手で握って、端と端をくっつけるように力を入れる。15秒経って力を抜くと、2本の鉛筆がつけると磁石のように離れなくなる感覚が生じる。
- 鉛筆を押し続けると筋肉が緊張して力が入りっぱなしになり、力を抜いてもすぐには緩まないため。
- この感覚は短時間で消失する。
以上については特にコメントはないが、自分でやってみたところでは特に2番目のほうで強い「くっつき感」が体験できた。なお同種の錯覚は、過去のチコちゃんの番組でも紹介されている。私がスゴいと思ったのは、前に出した両腕を押さえつけてもらい(もしくは机の下に手を入れるなどして上にあげられないようにする)、その状態で上に持ち上げようと力を入れると、押さえつけられなくなった後も自然に両腕が上がっていくように感じるという現象。
最後の5.の直毛の人とくせ毛の人がいる理由については、放送では「脳の温度を調節するため」が正解であると説明された。毛髪科学を研究している岩渕徳郎さん(東京工科大学)&ナレーションによる解説は以下の通り。
- 人間の髪質は、大きく分けると、直毛(ストレートヘア)と、くせ毛(天然パーマ)になる。
- くせ毛の原因はさまざまあり、例えば食生活の乱れやストレスで毛包がゆがむと突然くせ毛になってしまう人もいる。しかし大きくは遺伝が関係していると言われている。
- ウェザーニューズ2014年の調査では、日本人の男性の61%、女性の73%は『くせ毛』、つまり3人に2人はくせ毛であるというデータが出ている。【←これは自己申告によるもので客観的な基準が無いのでかなりあやしいように思う】
- くせ毛は遺伝的要素が大きい。大ざっぱな民族別に髪質を比較すると、
- アジア系:太くて硬い、太さは約0.08mm、本数は約10万本。
- ヨーロッパ系:波打つようなうねりがあり、太さは約0.07mm、本数は約14万本。
- アフリカ系:強いくせ毛、太さは約0.07mm、本数は約14万本。
- 民族によって髪質に違いがある理由は、くせ毛のルーツに関係しているのではないかと言われている。
- そもそも人類のルーツはアフリカとされている。
- はるか昔、人類の祖先はアフリカの森林で生活していたが、気候の変化で森林が減少し、約700万年前、サバンナなどの草原で暮らすようになった。
- その頃の人類は頭に髪の毛はなく、猿や犬のように体毛がそのまま頭に生えていた状態。
- その後、狩りや外敵から身を守るため、四足歩行から二足歩行に進化し道具を使うことを覚える。それに伴い脳も大きくなっていくが、サバンナには森林と違って太陽光を遮るものがないため頭に多くの熱が当たってしまっていた。
- 脳は熱に弱く、発熱量も多い。その脳を守るために頭に長い毛を生やす必要があった。
- こうして生えてきた髪の毛がくせ毛だったといわれている。
- くせ毛は直毛より温度調節がしやすいという。番組では以下のような実験が行われた。
- スキンヘッド、直毛、くせ毛の人の頭に温度センサーをとりつけ、ヒーターで45℃の熱をあてる。但しヤケドを防ぐため40℃まで上がったらヒーターを外す。
- スキンヘッドの人は、ヒーターを当て始めてから直線的に温度が上昇し、およそ2分で40℃に達した。またヒーターを外した後は急激に低下した。こうした急激な温度変化は、脳にはあまり良くない。
- 直毛の人の場合は、温度センサーを皮膚から離れた髪の毛の上に取り付けるので、体温の影響を受けないぶん、測定開始時の温度は、スキンヘッドの人よりも2℃ほど低い32℃前後になる。ヒーターのスイッチをつけると、スキンヘッドの人に比べてゆるやかに上昇が見られ、38℃に達した後は安定状態となった(熱が加わる速度と放熱する速度が均衡)。ヒーターを止めたあとは温度はゆっくりと低下。温度変化が緩やかであることは脳にとってはいいい。
- くせ毛の人は髪の毛の中に体温が伝わりやすいため、計測開始時の温度は直毛の人より1℃ほど高い33℃。ヒーターをあてると、直毛よりゆるやかに上昇したが8分経っても36.5℃までしか上がらなかった。またヒーターを止めると直毛の人よりゆっくりと低下した。これは、くせ毛のほうが空気をより多く含むため、(外気からの)熱が伝わりにくく、また一度温まった後では熱を逃しにくくなるためと考えられる。
- 生物は急激な変化よりもマイルドな変化のほうが対応できるので、くせ毛のほうが脳にとってはいい。
- 昼は暑く夜は寒いアフリカで生まれた人類にとっては、脳を守るため、温度変化が少ないくせ毛が適していた。
- くせ毛以外の髪質が生まれたのには、人類の移動の歴史が関係している。
- アフリカで生まれた人類の一部は、ヨーロッパ、シベリア、アジアと移動した。ヨーロッパはアフリカより寒く、脳の熱を逃がす必要がない。寒い地方では早く温まる必要があったので直毛になったのではないか。
- ヨーロッパはアフリカに比べると紫外線が少ないのでメラニン色素が少なくて済む。そのためメラニン色素が減って金髪になっていった。
- 日本人に黒髪が多いのは、日本人の祖先がヨーロッパを通らず、中東やインドを経由して日本列島に辿り着いたためではないか。
- 日本人に直毛の人とくせ毛の人の両方がいるのは、中東やインドを経由して日本列島に辿り着いた祖先のほか、ヨーロッパ・シベリア経由で辿り着いた祖先が日本列島で合流したためかもしれない。
- くせ毛の日本人は、人類の髪のルーツが残っているためかもしれない。
以上の説明の後半部分(人類の移動に関する話)は、「〜かもしれない」という推測を述べられたものであるが少々胡散臭いところがある。もっとも、少し前の怒りを通り越してあきれてしまうほど胡散臭い「他人の目を気にするのは石器時代を生き抜くため」という進化心理学モドキのこじつけと異なり、あくまで推測表現で終始しておられた点では、それほど胡散臭くないとも言える。私がイマイチ分からなかったのは以下の通りであった。
- 「脳は熱に弱く、発熱量も多い。その脳を守るために頭に長い毛を生やす必要があった」とあるが、必要があったというだけ髪の毛が勝手に増えるようになるわけではない。頭に髪の毛が生えた種族と、ゴリラやチンパンジーのような体毛を持った種族で、前者のほうが結果として生き残ったことを示す証拠が必要。【なお、このことに関しては、2020年11月5日初回放送のNHKヒューマニエンス『“体毛” 毛を捨てたサル』でも取り上げられていたと記憶している。
- 「ヨーロッパはアフリカより寒く、脳の熱を逃がす必要がない。寒い地方では早く温まる必要があったので直毛になったのではないか。」とあるが、保温力はくせ毛のほうが大きいことなどを考えると、くせ毛のままでそれほど不都合はなく、くせ毛から直毛に変わった理由がイマイチ分からない。
- 「日本人に黒髪が多いのは、日本人の祖先がヨーロッパを通らず、中東やインドを経由して日本列島に辿り着いたためではないか。」とあるが、そうであれば日本人にはもっとくせ毛が多いはず。上掲で日本人の2/3がくせ毛だというが、アフリカ系の人たちのような縮れ毛の人はそんなに多くない。その理由が説明されていない。
- 「ヨーロッパ・シベリア経由で辿り着いた祖先が日本列島で合流したためかもしれない。」とあるが、であるならなぜそういう直毛の人たちが金髪ではなく黒髪になったのかが説明できない。
- そもそも、髪質の違いは、生き残りを左右するほどの決定的な要因になりうるのか? 衣類や帽子でも体温調節ができることを考えると、特定の髪質の人たちだけがその地域の環境に適応して生き残ったとは考えにくい。
私が理解した限りでは、今回の放送内容からは、
- 日本人の祖先はヨーロッパを通らず、中東やインドを経由して日本列島に辿り着いたため、現代日本人もメラニン色素を含む黒髪が多く、かつ、くせ毛が多い。
- 但し一部の祖先はヨーロッパを経由したため、直毛かつ金髪になりやすい。
- それらの混血が現代日本人である。
という推測が可能となるが、実際には黒髪で直毛の日本人がもっと多いと思われるので、そのことをうまく説明できていないように思われた。
なお、遺伝や形質を科学的に分析するでは顕性をしっかり考慮する必要がある。また、日本列島各地の遺跡から、直毛やくせ毛の証拠、さらには古代DNA解析に基づく分析をしっかり行う必要がある。
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