じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



05月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

クリックで全体表示。



 5月7日(火)は、半田山植物園の隣にある法界院(金剛山遍照寺法界院)を拝観し、ミニ八十八箇所を巡った。
 GW期間中は本殿の秘仏が特別公開されているという案内板があったが、その翌日の5月7日も拝むことができた。
 写真は山門の風景。
  • 【写真上】山門手前の車止めには、4羽の鳥の像がある。何の鳥か、どういう経緯で設置されたのかは不明。いずれ住職さんに尋ねてみようと思っている。
  • 【写真下】山門手前の道沿い。右手の民家の方が1年中、季節の鉢花を飾っておられる。


2024年5月8日(水)




【連載】チコちゃんに叱られる! 「なぜ植物は声を出さない?」

 少し間が空いてしまったが、5月5日の続き。5月3日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. なぜ電車は曲がれる?
  2. なぜカッターナイフの刃がボキボキ折れるようになった?
  3. なぜ植物は声を出さない?
  4. こんなんのコーナー:「アリストテレスの錯覚」「2本の鉛筆が磁石のように離れなくなる錯覚」
  5. なぜ直毛の人とくせ毛の人がいる?
という5つの話題のうち、3.について考察する。

 さて、なぜ植物が声を出さないのかという問いであるが、これは番組制作上かなり無理をしているように思われた。声を出さないとされている生物は植物以外にもたくさんある。例えば、金魚は声を出さない。カタツムリも声を出さない。蝶や蛾も声を出さない。なので、問題の立て方としては、そもそもどういう生物は声を出しているのか? 声を出すことにはどのような適応的利点があるのか?ということを個別に分析するべきであろう。具体的には、まず生物一般は鳴かない(みずから音を発しない)ということを前提とした上で、例外的に声を出す生き物(羽音を含む)について、
  • 多くの種類の鳥はなぜ鳴くのか?
  • セミはなぜ鳴くのか?
  • 秋の虫はなぜ鳴くのか?
  • 犬はなぜ吠えるのか?
というように個別に検討を加えるべきであろう。
 いずれにせよ、植物は発声器官が無いので声を出すことができない。蓮の花が咲くときにポンという音がするという俗説があるが、実際にはほぼ無音、せいぜい微かな摩擦音が聞こえる程度であるらしい。

 ということで本題に戻るが、放送では「なぜ植物は声を出さない?」という問いに対して、「いいや叫んでる!」という反論が提出された。
 植物の生態を研究している豊田正嗣さん(埼玉大学)&ナレーションによる解説は以下の通り。
  1. 植物は何も言わず何も感じずに生きていると思われがちであるが、最近の研究で実は音を出している(=人間の言葉に喩えるならば「叫んでいる」)ことが分かってきた。
  2. 2023年3月に発表されたテルアビブ大学の実験で「植物の叫び」の録音に成功した。
    • トマトの苗に対して茎を切ったり水を与えなかったりすると、カツカツというような甲高いクリック音を発し始めた。
    • この音は人間には聞こえない50〜60kHzの超音波であるが、特殊な装置でこれらを可聴音に変換している。
    • 野菜や花を切った時にも同じように叫んでいるかもしれない。
    • なぜこのような音を出すのかは現在研究中。
  3. 植物は何も感じていなくて鈍感な生き物に思われがちだが、いろんなことを敏感に感じたり、時には喋ったりコミュニケーションをとったりしている。
  4. 植物間のコミュニケーションについてはNHKスペシャル『超進化論 第1集 植物からのメッセージ 〜地球を彩る驚異の世界』ですでに紹介されている。
  5. 最新の研究によれば、植物は、温度、湿度、重力、化学物質など、周囲の変化を感じ取るセンサーを20以上持っていることが明らかになってきた。
  6. 豊田正嗣さんの研究室では、植物が葉っぱを虫に囓られた時に発する反応を撮影することに初めて成功した。
    • 1枚の葉っぱが虫に囓られると、植物全体にメッセージが伝達される。
    • 高感度実体蛍光顕微鏡を使ってシロイヌナズナの葉を観察。このシロイヌナズナは、刺激に反応すると光るように遺伝子を組み換えてある。
    • イモムシが1枚の葉っぱを囓り始めると、囓られていない葉っぱにも光が広がっている。この光は植物の中のカルシウムイオンによって伝わっている。
    • 葉っぱが囓られると傷ついた場所からまずグルタミン酸が放出される。これを葉っぱの細胞が受け取るとカルシウムイオンの量が増え、植物全体に「囓られた」という情報が植物全体に伝えられる。
    • 情報が全体に伝わることで、防御反応として昆虫が消化不良を起こすような成分を出す。
    • その他にも葉っぱを囓る音や虫の唾液成分から虫の種類を判断し、防御物質の量や種類を変えたりしている。
    • 雨が降ってきた時には、雨粒に含まれる雑菌に感染して病気にならないように、植物の内部で抗菌物質を作ったりしている。
  7. さらに最近の研究では、植物同士でコミュニケーションを取っていることも明らかになってきた。
    • まず、ボトルの中で虫に葉っぱを囓らせる。
    • その時のボトル内の空気を、囓られていない別の植物にかける。
    • そうすると、囓られていなかった植物も同じように光り出した。
  8. 植物は虫に囓られると様々なニオイ物質を出す。草を刈った時にでる青臭いニオイ(青葉アルコールや青葉アルデヒド)もその1つ。これにより、「切られた!」、「虫に囓られた!」、「暑い!」といったメッセージを周りの植物に発している。
  9. 有名な物としては『カリキン』という化合物質がある。これは植物が燃えた時に出る化学物質で、例えば山火事が起こった時に他の種に働きかけて発芽を促す効果があると言われている。
  10. さらに別の研究者により、昆虫とのコミュニケーションでもニオイ物質が使われていることが分かってきた。
    • ヤナギの葉っぱがヤナギルリハムシの幼虫に囓られると、ヤナギはニオイ物質を発散させる。
    • 空気中のニオイ物質をカメノコテントウがキャッチすると、ヤナギにやってきて幼虫を食べる。
  11. 最後に、豊田正嗣さんによれば、すべての植物かどうかは分からないが、殆どの植物が反応したりメッセージを伝えたりしている可能性が高い、という補足説明があった。

 ここからは私の感想・考察になるが、植物内部、あるいは、異なる植物間の情報伝達については、私自身も、

●【2023年12月11日初回放送】ヒューマニエンス「“植物” 支配者は周りを動かす」 でしっかりと話を伺ったことがあった。

 もっとも、今回の話題はそもそも「なぜ植物は声を出さない?」であり、化学物質を発するという発見をいくら紹介しても、「実は声を出している」という反例にはならないように思う。最初に紹介されたテルアビブ大学の研究も、可聴域の音に変換しているということなので、声を出したと言えるかどうかは微妙。

 あと、人間以外では、一般には、発信者の様々な反応が受信者によって利用されるだけで「コミュニケーションが成立した」と見なされる場合が多い。極端に言えば、有利であろうと不利であろうと、発信者の情報が受信者によって利用された時にはコミュニケーションが成立したことになる。例えば海を泳いでいて怪我をた時に、その傷から放出される血の匂いがサメに感知されサメが集まってきた場合もコミュニケーションの一種となる。コミュニケーションの中には、発信者と受信者の両者に有益な場合もあるし(例えば受粉)、発信者だけが有利になる場合(例えば擬態)や、いま述べたサメの例のように発信者には不利で受信者のみが有利になる場合もあるように思われる。
 上掲のヤナギとカメノコテントウのコミュニケーションは珍しい発見のようにも見えるが、単に昆虫が花の匂いを手がかりに集まってくることもすべて植物・昆虫間のコミュニケーションであると言えないこともない。また、カメノコテントウは単に、ヤナギが発するニオイ物質を手がかりとして利用してヤナギルリハムシの幼虫を食べに来ただけと言うこともできる。

 ま、それはそれとして、植物が個体内で何らかの情報伝達の仕組みを持っているという可能性はなかなか興味深い。もっとも、それらは完璧な仕組みとは言いがたいようだ。ウマノスズクサを食い尽くすジャコウアゲハの幼虫などを観ていると、ちっとも防御反応が機能していないのではないかと思ってしまう。

 次回に続く。