【連載】チコちゃんに叱られる! 「右利き左利きがあるのは右脳と左脳があるから」をめぐる公共放送NHKの姿勢
9月6日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- ドラムを1人で叩くのはなぜ?
- 【罰ゲーム】湯飲み茶碗の下に敷く受け皿のことを何と言うか?
- 右利き 左利きがあるのはなぜ?
- 【休憩中の話題】小林聡美はエスカレーターを使用する際に立ち止まっているが、後ろから歩いて上ってくる人の邪魔になる。そういうが歩く人の圧に屈しないためにどうしたらいいか。
- お祭りでお面が売られているのがなぜ?
- 【ひだまりの縁側で…】どうすればさんすうがすきになれますか?
という6つの話題のうち、3.について考察する。
放送では、「右利き左利きがあるのは右脳と左脳があるから」が正解であると説明された。30年以上左利きの研究をしている脳内科医で医学博士の加藤俊徳さん&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- 利き手というのは文字を書く時や歯を磨く時など、日常の動作で優先的に使う手のことを言う。
- 利き手があることで脳の負担を減らすことができる。優先的に使う手が決まっていないと、転んだ時にどっちの手で防御しようかと考えてから反応すると間に合わず、怪我をしてしまう。動かす手の優先順位が決まっていればとっさに利き手が先に出るので考える時間が減って危険を回避する確率が高まる。利き手があることで、脳がいちいち指令を出す時間を省ける。
- 右利き左利きがあるのは右脳と左脳があるから。体を動かすのは脳のどこか1箇所でコントロールしているわけではない。右手は左脳、左手は右脳が動かしている。右利きの人は左脳にある右手の部分、左利きの人は右脳にある左手を動かす部分が発達している【画像は加藤俊徳著『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』ダイヤモンド社による】。このように、右脳左脳どちらがよく発達しているかで右利き、左利きの違いが生まれる。
- 右脳左脳の発達具合は遺伝子と生活環境で決まる。McManus & Bryden (1992)のデータによると、
- 両親が2人とも右利きの場合に子どもが左利きになる確率は9.5%
- 両親が2人とも左利きの場合に子どもが左利きになる確率は26.1%
となっている。
- 遺伝子の影響も大きいが、右利きの子どもが左利きの親の影響で左利きになることもある。つまりどちらの手をよく使うかという生活環境によっても決まる。
- 但し10歳ぐらいまでで無理に利き手を変えようとすると違和感でトラウマになる可能性もある。
- 「左利きは天才肌、センスがある」と言われることがあるが、脳科学的にちゃんと根拠があり、左利きは右利きよりも、右脳・左脳の両方を平均的に多く使っているから。
- 文字を書くとき、右利きが左の脳を使っているのに対して、左利きは右脳で左手を動かしながら反対の左脳で言葉の処理をしているので左利きは必然的に両方の脳を使う機会が多い。脳全体が活性化されるため人と違う考えが生まれやすくなる。これが左利きが天才と言われる根拠。
- 歴史上、モーツァルトやダ・ヴィンチ。エジソンなどど左利きで天才と呼ばれる人は数多くいる。
- かといって右利きが天才になれないということではなく、意識的に日常で左手を使うことで右脳が活性化される。
放送では、ZAZYさんに1ヶ月間左手を使って生活してもらうという実験を開始。毎週変化を伝えるという。
ここからは私の感想・考察になるが、右利き、左利きの話題は、ヒューマニエンスやサイエンスなどでも取り上げられており、その進化的な背景についてはある程度知っていた。もっとも、今回解説された方が、左利き研究の権威であるかどうかは少々疑わしいように感じた。もちろん、医師免許をお持ちで医学博士という肩書き、さらには『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』という御著書のタイトルによる権威付けは尊敬に値するかもしれないが、左脳をめぐる諸説がある中で、たった一人の脳内科医の主張だけを一方的に紹介するのは公共放送のNHKとしてはどうかなと思う。
念のため言っておくが、解説者がご自身の信念に基づいて一般向けの分かりやすい御著書を多数刊行されること自体は何の問題も無いし批判するつもりもない。しかし公共放送であるNHKがこの問題を取り上げる際には、他の説、特に左利きの優秀さを過剰に取り上げる風潮に対して否定的な見解についても公平に紹介していく必要がある。このことは科学番組であってもバラエティ番組であっても必要。今回の放送では解説者の向かって左側には『すごい左利き』、『寝るまえおんどく』などのご自身の一般向け著書が並べられており、いかにもNHKが解説者のビジネスの宣伝に手を貸しているという印象は否めなかった。
なお、右利きの人が日頃から左手を使う訓練をすることは決して悪いことではないと思う。例えば、
- 脳梗塞などによるマヒ、パーキンソン病による(右手の)震えなどで右手が使えなくなる。
- 長期間24時間の点滴を受ける場合、左腕ばかりでは針が刺さらなくなり、右腕に切り替えて点滴をすることがある。その場合、自由になった左手でいろいろな動作をする必要がある。
といった場合、日頃から左手で訓練をしておけば大いに役立つはずだ。ちなみに私自身は、左手で歯磨き(但し電動歯ブラシ)、マウス操作などを心がけている。
次回に続く。
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