じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 「チコちゃんに叱られる!『ZAZY天才家計画 完結編』」で放送されたZAZYさんの脳のMRI画像。左手生活を始める1か月前と現在を比較したもの(写真上)と、違う角度から見た画像(写真中)。

 解説者は、いずれの画像においても右脳に黒い部分(活性化している部分)が増えていたり濃くなっていたりしているので左手生活の効果があったと説明されていたが、左脳のほうも同程度以上に濃くなっており、左手生活が右脳の特定領域を活性化させたという証拠にはなっていないように思われる。

 なお写真下に写っているように、解説者がZAZYさんに画像の説明をしているテーブルには、『すごい左利き』などの著書が置かれていた。これらの本は書棚に整然と並べたものではなく、明らかに宣伝を意図した展示になっており、NHKが宣伝に利用されていることは明白。解説者がこのような本を執筆して大儲けをすること自体は全く問題無いが、公共放送が特定商品の宣伝に手を貸すというのは由々しき事態である。


2024年10月7日(月)




【連載】チコちゃんに叱られる! 「左手生活による天才化」は失敗

 昨日に続いて、10月4日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. なんでイクラは赤いの?
  2. なんで冷たい飲み物はおいししく感じるの?
  3. ZAZY天才化計画 完結編
  4. なんで数えるときに「正」の字を書くの?
という4つの話題のうち、3.について考察する。

 3.の『ZAZY天才化計画』は、ZAZYという芸人さんに丸1か月、左手で生活をしてもらい天才芸人になってもらおうというトンデモ企画であった。9月8日の日記などに記したように、もし、NHKが「左手を使えば右脳が活性化し天才になれる」などというあやふやな主張を無批判に受け入れ、左利きビジネスのお先棒を担ぐようなことがあれば大問題。BPO提訴案件になると思っていたところであったが、じっさいの放送内容は以下のようなものであった。
  1. まずはZAZYさんが1カ月にわたる涙ぐましい努力が紹介された。
    • 左手でオムライスを作る。
    • 左手でバランスゲームをやる。
    • 左手で箸を使いラーメンを食べる。
    • 「左手を使うということには腕の筋力も関わる。左手をダンベルで筋トレすることで左手がより動くようになり、右脳の活性化に効果的」という解説者のアドバイスにより、2週目から毎日15回ダンベルを行う。
    • トレーニング箸を使ってモズクそうめんを食べる。
  2. 1カ月後、左手でチコちゃんの絵を描いたところ、線がまっすぐ描けるなどかなりの上達が見られた。
  3. 脳を真上から見たMRI画像解析では、訓練を始めた1カ月前に比べて右脳の一部が若干黒く写っている(活性化している)ようにも見えた。
  4. 脳を違う角度から見ると、右脳のほうがだいぶ濃くなっているように見えた。
  5. 解説者は「天才に近づいている。「天才になった。自分の脳がたった1か月で進化している」と絶賛した。
  6. ZAZYさんから「活性化された脳で作ったネタ」として「猫道(ねこどう)」のギャグがが披露された。が、ウケはイマイチであり【というか私には何が面白いのかサッパリ分からなかった】、
    • 岡村さんからは「天才すぎて凡人がついていけない」「いきすぎた天才」
    • ゲストの若槻千夏さんからは「レベルが高すぎる」
    • ゲストの大竹まことさんからは「なんで猫道になったのか教えて」、「正直、つまんないよ」
    などと酷評された。本人からは「右脳が活性化されて理論とかじゃなくなっている」という言い訳があった。
  7. チコちゃんからは「(世界進出の)可能性はあるかも」、岡村さんからは「もう日本にいたらダメかもしれない」などと言われ、本人からの「左手の次は海外」という言葉で4回シリーズの幕を閉じた。
 ここからは私の感想・考察になるが、当初、「あやふやな説を無批判に紹介している」、また「青少年に悪い影響を及ぼす」恐れがあるなどの理由で、BPO提訴案件になるのではないかと懸念していたところであったが、結果的に、天才化計画は失敗、なので視聴者がみずから左手生活を始めて天才になろうとする、といった深刻な影響には至らないように思われた。じっさい、高校生以上、あるいは少し聡明な中学生なら分かるように、この「天才化計画」は何も成果を上げずに終わっている。
  • まず、これは心理学の実験であれば初歩中の初歩とも言えることだが、「天才度」測る物差しが必要。例えば図形パズルとか、創造性テストなどが考えられる。左手生活を始める前に比べてスコアが上昇すれば、とりあえずその個人において「天才化」が成功したと言うことはできる。今回はそのような評価手段がないので、そもそも何も実証できない。また、いずれにせよ、ある訓練法が天才化に有効であったかどうかという一般的な効果までは実証できない。
  • 上記2.の「左手で絵を描くのが上手になった」というのは、訓練をしたのだから当たり前。逆上がりの練習をして上達するのと同様。余談だが、心理学の初級実験実習では「鏡映描写」実験というのがある。左手で細かい作業をする訓練をすれば、ある程度は右手での作業の上達が期待される。
  • 3.と4.のMRI画像の解析に関しては、右脳の特定部分の「活性化」が強調されていたが、上掲の画像で指摘したように左脳でも黒い部分が増えたり濃くなったりしており、右脳だけが活性化されたとは言いがたい。では脳全体が活性化されたのかということになるが、そもそもどういう状態・文脈のもとで撮影されたのかが不明であり、簡単には結論できない。1カ月後の撮影時(=現在)のほうが直前に頭を使っていたのかもしれない。いずれにせよ、画像が黒っぽくなったというのは、脳の状態がそうなったというだけであって天才化の証拠にはならない。
ということで、ZAZYさんにはまことに気の毒であったが、今回の「天才化」の訓練は失敗に終わったと言える。左手生活が有意義であったとすれば今後も続けるはずだが、直ちに止めてしまったところをみると、やはり天才化が実感できなかったようである。ま、この番組によって知名度が上がったことは間違いないので、損はしていないとは思う。

 解説者の著書の宣伝にNHKが利用されてしまった点は問題として残るが、今回の放送を視てずいぶんいい加減な実験だなあと思った人が多ければ、解説者の信用度は低下し、むしろ本の売れ行きを減らすことになるだろう。

 次回に続く。