じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 ウォーキング中に見かけた黒猫。正確な集計はしていないが、最近は実物の猫を目撃する回数がすっかり減っているような気がする。今回は猫の目撃としては半年ぶりくらいの出来事であった。
 その原因としては、
  • 地域猫が捕獲されてしまった
  • ボランティアの手によって地域猫の避妊手術が行われ子孫が殖えなくなった
  • 何らかの感染症により数が減ってしまった
  • 飼い猫は室内だけで飼育するようになった
といった可能性があるが、そもそも私の目撃体験だけでは本当に数が減っているのかどうかを確認することができない。



2024年11月7日(木)





【連載】あしたが変わるトリセツショー『がん対策』(3)不老不死のヒーラ細胞/免疫細胞

 昨日に続いて、10月17日(木)に初回放送された、

がん対策

についてのメモと感想。

 放送では続いて、がんに対する秘策が2つ紹介された。
 1番目に登場したのは、腫瘍学の専門家の藤田恭之さん(京都大学・分子腫瘍学)であった。藤田さんの秘策は、「がんとは何者か?を知るべし」というものであった。
 放送ではまず藤田さんの研究室が紹介された。その中に、藤田さんが顕微鏡を通して長年「対話」を続けている『ヒーラ細胞』があった。リンク先にも記されているように、この細胞はヒト由来の最初の細胞株であり、1951年に子宮頸癌で亡くなった30代アフリカ系アメリカ人女性ヘンリエッタ・ラックスの腫瘍病変から分離され現在に至るまで世界各地で培養されており、今では元の女性の10億人分に増殖しているという。
 放送内容から外れるが、ウィキペディアによれば、この不死の細胞については以下のような経緯があるようだ。
  1. 細胞の採取は本人に無断であったが、その没後に原患者氏名(Henrietta Leanne Lacks)から命名された。
  2. 彼女の子供がこの細胞のことを偶然知ったのは、20年以上経ってからのことであった。この間にも、HeLa細胞は様々な実験室で用いられ、また商業的にも扱われていたが、その利益の一部を彼女の家族が受けることもなかった。この問題は、後にジョン・ムーア対カリフォルニア大学の指導教授の訴訟 がカリフォルニア州最高裁判所に提訴された際の参考事例となり、法廷は摘出された組織、細胞はその人のものではなく、商業的に扱って構わないと裁定した。
  3. HeLa細胞は継代培養されており、HeLaに由来するいくつかの株(HeLa S3など)も存在する。これらを含めて、全てのHeLa細胞はラックスから切除された同じ腫瘍細胞の子孫である。
  4. 採取から時が経つにつれ医療倫理がより重視されるようになり、2013年に欧州分子生物学研究所がHeLa細胞のゲノムの一部を公表したことも、ラックスの遺族の個人情報保護の観点から批判を受けた。このため現代では、アメリカ国立衛生研究所がHeLa細胞のゲノム利用に際してラックス家の事前承認を得るなどルールづくりや、企業・研究機関による寄付などヘンリエッタ・ラックスの顕彰が行われている。
  5. 一般に、(L細胞の起源となった例のように)マウスなどの齧歯類由来の細胞は比較的容易に不死化し、通常の培養過程で自発的 (spontaneous) に不死化することもあるが、これに対してヒト細胞は不死化しにくく、HPV E6E7だけでは不死化が起こらないケースも多い。HeLa細胞では、この機構に加えて、他のがん細胞でもしばしば見られるように、テロメラーゼが活性化されており、老化とその結果として起こる細胞死に関係があるとされるテロメアの漸次的短縮を妨げている。これによって、HeLa細胞はヘイフリック限界を回避している。
  6. 無限に複製するその細胞の能力とヒトとは異なる染色体数から、リー・ヴァン・ヴェーレンはHeLa細胞を、人間の体細胞とは別種のHelacyton gartleriであると論争的に述べた。
 以上のことからふと思ったが、ヒーラ細胞には原患者ヘンリエッタ・ラックスさんを特徴づける遺伝子が相当程度残っているはずだ。がん細胞化したコピーミスの部分を人為的に復旧すれば、元の人間の細胞に戻すことができるだろう。この技術を使えばひょっとしてヘンリエッタ・ラックスのクローンを作り出すことができるように思える。もっとも、上掲の6.で指摘されているように、現在培養されているヒーラ細胞は、人間の体細胞とは別種である可能性もある。あくまでフィクションの範囲だが、何百年もあとになって、がん細胞から復元された不老不死の新人類が出現し、現人類と戦うようになるかもしれない。




 本題に戻るが、放送では続いて、トロンボーン演奏を趣味とする男性(56歳)の事例が紹介された。この男性は、昨年、血便が出たことで病院に行ったところ大腸がんのステージUであると診断され、切除手術を受けた。ご本人は酒を飲まずタバコも吸わないし、運動も嫌いではない。がん家系でもなく、大腸がんの原因につながるようなものは見つからなかったという。藤田さんは、この男性ががんになったのは、運が悪かったとしか言いようがないと述べておられた。

 では、なぜ運なのか? 放送によれば、がんは、特定の原因が無くても遺伝子のコピーミスによって起こりうる。私たちの体は、およそ60兆個の細胞からできていて、毎日およそ1兆回の細胞分裂が行われている。その際に、細胞の設計図である遺伝子のコピーミスが起きてしまうことがあり、これががんの始まりとなる。
 健康な人でも細胞分裂によるコピーミスは、計算上は1日数千個生まれると言われている。但しそれらは異常な細胞なので、多くの細胞は死んでしまったり、免疫細胞などによって体から排除される。しかし、まれに排除されずに生き残る場合があり。生き残ったものが異常な増殖を繰り返すことで、がんの悪性度は増していく。
2017年世界的科学雑誌「Nature」でがんになる原因について衝撃的な研究成果が掲載された。

Heidi Ledford  (2017).DNA typos to blame for most cancer mutations. Nature.

32種類のがんについて解析したところ、がんの原因の約66%が、「細胞分裂によるコピーミス」。これまでがんの原因としては「遺伝」が約5%、お酒やタバコ、運動不足といった「環境要因」が約29%」であるとされてきたが【Tomasetti & Vogelstein(2017), Science, 355, 1330-1334.】、上掲の研究によれば、細胞分裂のコピーミスによる原因が約66%であることが示された。もちろん、肺がんではタバコが大きなリスクになるなど、がんの種類によっては環境要因も重要だが、コピーミスの原因はかなり大きい。藤田さんは

どれだけ清く正しく美しく生きていてもがんになってしまう。がんというのは人あるいは多細胞生物の抱えた宿命のようなもの。

と説明された。




 ここでいったん私の感想・考察を述べさせていただくが、まず「がんは運」については11月5日にも日本のデータを孫引きしたところである。但しその時の「運」は、「原因不明によるがんが男性では55%以上、女性では75%弱にのぼる」という意味であった。いっぽう上掲では、「運」の正体は「コピーミス」が約66%となっていて、より具体的に明らかにされたようである。もっともコピーミス自体は確率現象であり、ミスを防ぐ対策をとることは難しそうだ。

 なおネットで検索したところ、2017年3月23日配信の、

Most cancer mutations arise from ‘bad luck,’ but many cases still preventable, researchers say.

という記事も見つかった。押川勝太郎先生も言っておられるように、がんという言葉は総称であって、発生する部位によって原因や治療法も異なってくる。運次第とはいえ、努力や気配りによって確率を下げられる可能性も無いとは言えない。

 素人的にがん対策として考えられそうなのは免疫細胞の活性化である。上記の、

健康な人でも細胞分裂によるコピーミスは、計算上は1日数千個生まれると言われている。但しそれらは異常な細胞なので、多くの細胞は死んでしまったり、免疫細胞などによって体から排除される。

という説明から素朴に推測できることは、免疫力を高めれば異常な細胞を排除しやすくなるのでは?ということだ。もっとも、押川先生のような「NK細胞を増やしても意味がない」という指摘もある。ただし、NK細胞の働きはがんの種類によっても異なるであろうし、がんの発症抑制段階での働きと、がんにかかったあとの治療段階での働きでは異なる可能性もあり、全面否定はできないように思う。

 次回に続く。