【連載】チコちゃんに叱られる! 「椿は冬に咲く」というのは本当か?」
昨日に続いて、2月21日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- 女学生が卒業式に袴をはくのはなぜ?
- なぜ寒いと手足が冷たくなる?
- ツバキが冬に咲くのはなぜ?
- 【視聴者の皆さんからのお便り】どうしたら物事を長く続けられる?
という4つの話題のうち3.について考察する。
さて3.のツバキの話題であるが、放送では、ナレーションの森田さんから、
●暖かい季節に咲く殆どの花と違ってツバキは寒い冬に咲きます。いったいなぜなのか考えたことありますか?
という形で疑問が提起された。しかし、休園日を除いてほぼ毎日、近くの植物園に通っている私としては、この疑問自体にイマイチ納得できないところがあった。
- 放送では「ツバキは冬に咲く」ということが当たり前のように言われていたが、私が見る限り、半田山植物園内で咲いているツバキは、カンツバキ(↑の写真参照)のほか、『曙』、『ベニワビスケ』や『太郎冠者』などの『侘助』系の数種類程度であり、大半の品種は2月24日時点ではまだ蕾状態となっている。なので、ツバキは「冬に咲く」のではなく「春に咲く」のではないか?
- 岡大構内での写真記録を見ても、ヤブツバキやオトメツバキは3月に咲いている。2018年3月20日の日記参照。
- 伊豆大島の椿まつりも2025年は2月2日から3月16日開催となっており、真冬ではなく早春の時期に行われている。
- つまり、ツバキの開花については、「なぜ寒い時期に咲くのか?」ではなく「なぜ寒い時期より少しあとの早春に咲くのか?」という形で問題提起するべきであろう。
- 放送では「殆どの花は暖かい季節に咲く」と言っていたが、冬に咲く樹木の花はロウバイ、マンサク、ウメなど他にもありツバキだけが特異的に咲いているわけでもない【←しかも厳冬期ではなく早春以降に咲いている】
ということで、「ツバキが冬に咲くのはなぜ?」というのは疑問自体が成り立っていないような気もした。
それはそれとして、放送では「ツバキが冬に咲くのは鳥に蜜を吸ってほしいから」が正解であると説明された。小泉不二男さん(日本ツバキ協会・副会長)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- ツバキが冬に咲くのは鳥に蜜を吸ってもらうために進化した結果だと考えられる。
- ツバキにはいろいろな種類があるが、今回は私たちがよく目にする日本原産のヤブツバキについて話をする。
- ヤブツバキの蜜を吸うのは殆どがメジロなどの鳥。
- 鳥に蜜を吸わせるのは花粉を運んでもらい子孫を残すため。
- 一般的に花は雄しべの花粉を雌しべに受粉させることで種を作る。
- 同じ種類の別の個体の花粉をもらうほうが多様な遺伝子が伝わり、生き残る可能性が高くなるのだが、花は自分では動けないので虫や鳥に花粉を運んでもらう。
- 植物によっては風で花粉が運ばれることもあるが、確実に受粉するには虫や鳥に助けを借りなければならない。
- 花粉を運んでもらったお礼としてご褒美が用意される。それが花の蜜。例えば虫が花粉を運ぶ場合、花から作られる甘い蜜は虫の食料になる。蜜を吸う時に羽根や口に花粉がつくが、もっと蜜が欲しい虫は別の花に飛ぶので、花粉が花から花へと運ばれて受粉し種を作ることができる。
- 花粉を運ぶのは鳥よりも虫のほうが圧倒的に多い。多くの虫は春や夏の暖かい時期は花粉を運んでもらえるのでたくさんの花が咲く。
- 暖かい季節は虫たちが花を選び放題になりライバルが多い。だからツバキは敢えてライバルが少ない冬に咲き、効率よく子孫を残そうとしたのかもしれない。
- しかし寒い冬には花粉を運んでくれる虫は殆どいない。そこで活躍してくれるのが鳥。メジロなどの鳥は、暖かい季節は虫や果実を食べるが、冬はそれらが少ないのでお腹を空かせた鳥はエネルギーをとるために花の蜜を吸いにやってくる。鳥によって確実に花粉が運ばれる。寒い冬に花を咲かせても子孫を残して生き残っていける。
- つまり、ツバキはライバルの少ない冬に花を咲かせ鳥に花粉を運んでもらうように進化した。
- ツバキが鳥に蜜を吸わせるように進化した点として3つが挙げられる。
- たくさんの蜜:鳥は虫と比べて体が大きい【メジロの体長は約12cm、ハナアブやハエは1.5cm以下】ので、鳥は僅かな蜜しかない花には見向きもしない。ツバキの花はジュースのような濃度が薄めでサラサラとした大量の蜜を提供している。
- とまりやすい咲き方:ツバキはちょっと下向きに咲く。これは鳥が花びらに足を引っかけて蜜を吸うのに適した角度になっている。もし上向きに咲いていたら花びらに乗ることになり自分の重さでバランスを崩してしまう。下向きに咲くことで花びらにぶら下がってくちばしを花の奧の蜜へと近づけられる。
- 筒状の雄しべ:ツバキの蜜は雄しべの下のほうに蓄えられている。雄しべの根元は筒状にくっついているので、花の横からは吸うことができない。だから鳥は花の真上の真ん中からくちばしをつっこんで蜜を吸うしかない。その際、くちばしの周りに花粉がくっつくので、別の木に花粉が運ばれ子孫を増やすことができる。
放送ではさらに、小泉さんがみんなに教えたいツバキが紹介された。
- 乙女椿:江戸時代に長崎からヨーロッパに渡り流行。オペラの名作『椿姫』のツバキとも言われており、『東洋のバラ』とも言われるゴージャスなツバキ。鮮やかなピンクの花びらがたくさん集まった千重咲き。
ツバキは19世紀に日本からヨーロッパに渡り貴族たちを中心に大ブームを引き起こし世界に広がった。今ではアメリカで盛んに栽培が行われている。
- 旋律紅(せんりつこう):山口湛夫氏が作出。2023年ハリス・ハイブリッド賞。30年前、中国で黄色いツバキ『金花茶』が発見され、日本で改良が重ねられて誕生。
ここからは私の感想・考察を述べさせていただくが、まず、ウィキペディアに「日本原産。メジロなどの野鳥に蜜を吸わせ、花粉を受け渡す鳥媒花である。日本では北海道南西部、本州、四国、九州、南西諸島、日本国外では朝鮮半島南部と中国大陸、台湾が知られる。」と記されている通りで、鳥媒花としてツバキとメジロが「互助関係」にある点は放送内容からよく理解できた。しかし、冒頭に、
- 厳冬期から早春に咲く花は他にもある。ヤツデ、サザンカ、ロウバイ、マンサク、ウメ、ボケなど。
- ツバキの多くは厳冬期ではなく早春(2〜4月)に咲く。
と述べたように、ツバキだけが冬に咲くわけではないし、そもそもツバキは冬に咲くのか?という点で今回の説明だけではイマイチ納得できない点が残った。
なお、ウィキペディアには、鳥媒花の植物として、アロエ、アンズ、ウメ、サザンカ、ツバキ、デイゴ、ノウセンカズラ、ハイビスカスなどが挙げられていた。それぞれ、鳥が吸いやすく、また鳥の食料として十分な量の蜜を提供しているのではないかと思われる。ま、ニッチを埋める形でツバキが、他の植物とは異なる時期に、異なる花粉運搬手段を利用し、結果として生き残ったと言うことはできるかもしれない。
ロウバイの花期は10月から3月(日本ではふつう12から2月)であるがハエやハナアブ、ハナバチによって花粉媒介されるという。
ウメについてはこちらに、
ウメはもともと中国でも揚子江の南側の暖かい地域に野生していた植物であったため、寒さには弱く、寒い地方では花は咲いても実がならないことが多い。また、寒い地方ではウメの開花が早い年は実成りが悪いと言い伝えられている。なぜか?
果樹の多くは虫媒花であり、ウメもそうである。だが、ウメの花粉を特別に媒介してくれる昆虫が日本にはいない。それはウメが外来の植物であり、導入のとき一緒に昆虫までは連れてこなかったためである。ウメでの花粉媒介は、他の花の蜜や花粉を目当てに羽化する昆虫が、序でにしてくれる。だからウメだけ早く開花しても、それはあだ花に終わるというわけだ。
という記述があった。また、こちらには、
ウメは同じ品種の花粉では受粉しても実がならない「自家不結実性」が多く見られ、他品種であっても受粉しない「他家不親和性」のものもある果樹です。
果実を安定して収穫するためには、受粉樹として別の品種を植えます。受粉樹は花粉が多く、開花期が同じ時期で不親和性の少ない品種を選びます。
「花香実」「紀州大粒小梅」「八郎」など、1本の木でも受粉結実する品種がありますが、これらも他品種を混植することで結実が増えます。
「南高」などは花粉も多く、ほかの品種の受粉樹になり得るものの、「南高」自身は限られた品種以外の花粉では結実しません。「白加賀」などは花粉が少なく、他品種の受粉樹になり得ません。一般に受粉樹として、「甲州小梅」「花香実」「紅さし」「鴬宿」などが用いられますが、その中で「花香実」をおすすめします。この品種は花粉が多く開花期も中庸で、品種間の親和性が高いです。かつ花も美しい桃色の八重で香りがよく、1本でも実がなるので、庭木としても楽しめます。
という説明があった。
あくまで私の推察であるが、それぞれの植物の花期というのは、花粉運搬のタイミングだけでなく、種が完成し実が熟すまでの日数によっても左右されるのではないかと思われる。梅、サクランボ、アンズ、桃などは比較的短期間に実をつくり熟して落下してしまうが、植物園にあるサンシュユ、ロウバイ、センダン、ボケなどは翌春以降まで実をつけている。ツバキの果実は9〜11月に熟すので、比較的長期間にわたるようである。その場合、いつ受粉するのか、タイミングが問題になるだろう。一般に北半球の温帯地方では夏場に光合成が活発に行われるので、より大きな果実を作るためにはそれなりの期間が必要。しかしだからといって晩秋に開花して厳冬期に果実を作るのでは日照や温度が足りない。そういった種々の要因から逆算されて最善の開花時期が決まって来るのではないかと思う。もちろん、鳥媒花や虫媒花では野鳥や昆虫の繁殖時期も影響されるであろうし、果実を作るまでの日数の長さがどういうメリット、デメリットをもたらすのかも別に考える必要がありそう。
次回に続く。
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