【連載】チコちゃんに叱られる! 「寒いと手足が冷たくなる原因、AVA血管、しもやけ」
昨日に続いて、2月21日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- 女学生が卒業式に袴をはくのはなぜ?
- なぜ寒いと手足が冷たくなる?
- ツバキが冬に咲くのはなぜ?
- 【視聴者の皆さんからのお便り】どうしたら物事を長く続けられる?
という4つの話題のうち2.について考察する。
さて、2.の疑問は、以下の3つに置き換えることができる。
- どのようなプロセスで手足が冷えてしまうのか?
- どういう目的で手足が冷たくなるのか【手足が冷たくなることでどういう有益な結果が得られるのか?】
- 何か別の目的があり、その結果として手足が冷たくなったのか?
このうち1.は英語の「How」に関する質問である。ゲストの倉科カナさんが「血流が悪いから」と答えていたが、これも正解と見なすべきであろう。但し、寒くなってきた時にどういう仕組みで血流が悪くなっていくのかを説明する必要はある。
この倉科さんの答えに対してチコちゃんは「それは分かっているんだけれども、寒くなると何のために血流が悪くなるの?」と問い糾していた。これは2.のタイプの疑問となる。2022年12月26日に記した「寒いとなぜ鳥肌がたつのか?」の説明も2.のタイプかと思う。しかし今回の正解は「手足を犠牲にして心臓や脳を守っているから」というものであり、3.のタイプの説明であった。要するに心臓や脳を守ることを目的としたプロセスが結果として手足を冷たくしてしまうというものであった。なお、上記では「目的」と記したが、正確には「○○という役割を果たしている」という意味。【例えば、「心臓は体内に血液を送る目的で動いている」ではなく、「心臓は動くことで体内に血液を送るという役割を果たしている」、あるいは「心臓には体内に血液を送る機能がある」と表現するべき。種々の生理的な機能は初めに目的があって設計されたわけではない。】
前置きが長くなったが、体温調節のメカニズムを研究している平田耕造さん(神戸女子大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。なお、今回の放送より詳しい解説が、
●手足の冷え防ぐ6つのコツ カギ握るは「AVA血管」【NIKKEI STYLEアーカイブ、2017年12月1日配信】
という記事に掲載されていた。
- 寒い時に手足が冷たくなるのは、体温調節する血管が手足を犠牲にしているから。
- 体温調節する血管は『動静脈吻合』、通称『AVA(Arteriovenous Anastomoses)血管』と呼ばれており、手足などにある。
- 通常、血液は「動脈→毛細血管→静脈」というように流れるが、末端の毛細血管の手前で動脈と静脈を繋いでいるのがAVA血管。
- 暖かい所に居る時はAVA血管が太く開いて、毛細血管にも温かい血液が流れるため、全身が温かい状態になる。
- ところが寒さが強まるとAVA血管が閉じてしまう。
- AVA血管が閉じても毛細血管には血液が流れるがその量はほんの少しになり、温かい血液が流れなくなることで手足が冷える。さらに手足の表面から熱が奪われる。
- 寒くなるとAVA血管が閉じてしまうのは、命を維持するために何より必要な脳や心臓の核心部の温度を保つため。
- AVA血管があるのは体の末端部。末端部はサイズが小さい割に表面積が広いため、中の熱が外に逃げやすい。寒い時にAVA血管が開いたままだと大量の血液が末端部で冷やされて冷たくなってしまう。その冷たい血液が大量に核心部に戻ると心臓や脳が血液で冷やされてしまうため、これを防ぐためにAVA血管が閉じる。
- AVA血管が閉じれば、末端で冷やされる血液は少なくなり、体の中心に戻る途中で血液はだんだん温かくなり、脇の下を通る頃には心臓などと同じ温かい温度になる。
- つまり、寒いと手足が冷たくなるのは、AVA血管が閉じて手足を犠牲にし、心臓や脳などの核心部を守っているから。
- 冷え性の人はそうでない人よりAVA血管が閉じるのが早いのですぐに手足が冷たくなる。
- 手足が冷えた時は手袋やカイロなどで直接温めがちだが、より効果的なのは体の中心部や首を温めること。
- なお放送では、腹巻き、マフラー、カイロ、ベストでなどで体の中心部を温めると手のひらが温かくなるかどうか実験が行われたが、実験に参加したディレクター2名のうち1名はなかなか温められなかった。AVA血管の開閉のスピードには個体差があり、その人の場合はAVA血管がすぐに閉じるいっぽう、体を温めてもなかなか開かないという特徴があると説明された。
- 【補足説明】運動不足の人や皮下脂肪が少ない痩せ形の人が冷え性になりやすい傾向がある。手足が冷たくなった時は、運動する・タンパク質を多く含むものを食べるなど、体の中から熱を作り出すことも大事。
ここからは私の感想・考察になるが、まず、上掲の、
●手足の冷え防ぐ6つのコツ カギ握るは「AVA血管」【NIKKEI STYLEアーカイブ、2017年12月1日配信】
から、追加情報を取得しておく【要約・改変あり】。
- AVAは、皮膚では手足の末端、顔の一部だけに存在する特殊な血管だ。手の場合、甲側ではなく、手のひら側にあり、足では足裏と指、顔では耳、まぶた、鼻、唇と、皮膚の薄い末梢に多く、皮膚表面から約1mmと毛細血管より少し深いところに1平方センチ当たり100〜600個存在する。拡張したときの直径は毛細血管の約10倍。つまり、流体力学の法則から流れる血流量は1万倍にもなる。一方で、完全に閉じると血流量はゼロになる。
- 全身にある毛細血管は細胞に酸素や栄養を運ぶのが役割だが、AVAにはそうした役割はない。AVAは体温調節が仕事で、拡張して胴体部分から、熱を奪われやすい末端部分へ熱を運ぶことができるように、末端に多く存在しる。ただし、寒さが強くなると、AVAは収縮して末梢への血流を減らし、そこから熱が逃げるのを防ぐ。脳や心臓など生命維持に必要な体の中心部の温度を保つことを優先するため。
- 動脈からAVAに入り、そこを通過した血流は、静脈を通る間にも、腕全体から熱を逃がすなどしながら心臓に戻り、体温を調節していることも分かっている。
- 暑いときは皮膚表面に近い静脈を通って積極的に熱を逃がしながら戻り、寒いときには動脈と接する深部にある静脈を通ることで、動脈の熱をもらいながら温まった血液が心臓に戻ることで、うまく体温を調節している。
- 「皮下脂肪は断熱材」。皮下脂肪が多いと熱がなかなか逃げていかないので、AVAが拡張し、手足など末端の血流を増やしてそこから熱を逃がそうとする。そのため脂肪の多い人は手が温かい傾向がある。逆に脂肪が少なくやせている人は、もともと胴体から逃げていく熱量が多いため、わざわざ手足に血流を増やす必要がなく、少し温度が下がっただけでAVAが閉じるため手足が冷えやすい。
- 10度以下で痛みを伴うほどの厳しい冷たさになると、凍傷になるのを防ぎつつ、体温も維持するために、AVA血管はあるレベルで開閉をくり返す。これが「寒冷血管拡張反応」だ。この反応には民族による違いもあり、日常で厳しい寒冷刺激にさらされているイヌイットの人々は反応性が高く、痛いと感じる前にこの反応が起こるという。逆に熱帯育ちで寒さをほとんど体験しない民族は同じ条件でテストしても数十分間ずっと痛いままで、この反応が起こらない。
上掲の追加情報から、
- AVAは体温調節に特化した血管。
- AVAは寒い時ばかりでなく暑い時にも体温調節をしている。
ということが分かった。
今回の放送では一言も言及されなかったが、毎年寒くなると悩まされるのがしもやけである。これまで、末端部の毛細血管の血行が悪くなるために発生すると思っていたが、より正確に言えば、AVAが閉じることで結果的に毛細血管の血流が減ることが原因となるようである。
ネットで検索したところ、こちらに、
●元々このような体温調整機能がある部位【AVAがある部位】が、過度な低温や温度差にさらされた結果、さらに小動静脈の収縮機能不全も合併し血液還流障害を起こした結果として「しもやけ」になるものと考えられます。
という記述があった。
ちなみに私自身は、子どもの頃は毎年しもやけができていたが、大人になると解消。ところがここ数年、またまた手指のしもやけに悩まされるようになった。こちらの記事によると【要約・改変あり】、
●毛細血管は加齢と共に血管そのものの数が減ることが、近年の研究から分かっています。その数は20歳をピークに60歳以上では20歳の時の約60パーセントにまで減少します。
加齢により冷える原因には、毛細血管の数が減っていくことや、筋肉量が減って熱を産生できなくなること、加齢と共に「ゴースト血管(無機能血管)」が増えることなどが関係しています。「冷えは万病のもと」と言われる通り、ゴースト血管が増えると、様々な臓器の機能低下を引き起こします。
ということで、子どもの頃とは別の原因で起こっているようだ。外出時に手袋をするなどそれなりの防寒対策をしているのだが、
- デジカメを操作する時に手袋を外す
- 室内の温度は18℃前後に保たれているが、それでも指先は冷える
といった原因により防ぐことはできない。
なお、体温調節ネタとしては、2023年10月8日の日記で、
●気温40℃は暑いのにお風呂の40℃がちょうどいいのはなぜ?
という話題を取り上げたことがあった。今回の「寒さと手足の冷え」ばかりでなく、暑い時の発汗機能、深部温と皮膚温の温度差などを含めて、体温調節のメカニズムはなかなか奧が深い。
次回に続く。
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