【連載】チコちゃんに叱られる! 「ビールのジョッキ」についての胡散臭い説明
昨日に続いて、7月11日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- 動物園をつくったのはなぜ?
- 木が長生きなのはなぜ?
- ビールをジョッキで飲むのはなぜ?
という3つの話題のうち最後の3.について考察する。
ちなみにビールを飲む容器についての話題は過去にも取り上げられたはずだと思いこちらを検索したところ、ちょうど1年前の7月12日放送分で、
●瓶ビールのコップが小さいのはなぜ?
という話題が取り上げられていたことが確認できた。その時の疑問は、ジョッキではなくて、およそ1合(180ml)のビールコップに関するものであった。
- ビールコップが小さいのは「当時はまだガラス製品が高価だったため、コストの関係で小さいコップになった。」
- ガラス製品が安く製造できる今の時代でも小さいままなのは「日本独特のお酌文化が影響しているのではないか」
というように説明されていた。今回の解説者は、その時と同じビール文化研究家の端田晶さんであり、私個人としては、前回とどのように整合性をとるのかに興味があった。
さて放送では、ビールをジョッキで飲むのは「パワー不足の日本人だったけどドイツのビールを好きになったから。」が正解であると説明された。端田さん&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- 日本に初めてビールが伝わったのは江戸時代中期。オランダ人が持ち込んだ。
- 『蘭説弁惑(らんぜつべんわく)』(1788年)にはビールを飲むためのグラス(びいるがらす)が絵付きで紹介されている。
- 『蘭語訳撰(らんごやくせん)』(1810年)には「Bierglas met handvat」として「ハンドル付きビールグラス」が紹介されていた。
- 但し江戸時代にビールを飲んでいたのは日本に滞在していた外国人のみだった。
- 日本人がジョッキでビールを飲むようになったのは明治時代になってからでドイツの影響。
- 明治時代、日本にとってドイツは近代国家を目ざす上でのお手本だった。医学生など多くの日本人がドイツに留学した。
- 留学生たちは現地のビヤホールを訪れ、1リットルの取っ手つきジョッキでビールを豪快に飲むドイツ人を目撃した。
- ドイツ人が大きなジョッキを使うのはそもそもドイツ人が大量にビールを飲むため。現在でも1人あたりの年間消費量は、日本人が34.5リットルであるのに対してドイツ人は88.8リットルとなっていてドイツ人のほうが遙かに多い。小さいグラスで飲んでいたらいちいちお替わりが面倒くさい。
- ドイツではビールを1リットルのジョッキで飲むという情報は帰国した留学生によって伝えられた。
- しかし明治時代の日本人は平均身長が男性約157cm、女性約147cm、平均体重は男性約50kg、女性約47kgで現代よりかなり小柄だった。1リットルのジョッキにビールをなみなみと入れると約2.4kgとなり、おちょこ約90g、湯飲み約270gのような小さな容器で飲んでいた日本人には負担だった。
- 当時のドイツでは1リットルジョッキが主流だったが500ミリリットルのジョッキも使われており、500ミリリットルであれば力が弱い日本人でも軽々と扱えるため、これが現在にも続くジョッキのサイズになった。
- つまり本当はドイツ人のように1リットルジョッキで飲みたかったものの、日本人のパワー不足により500ミリリットルのジョッキが選ばれた。
- ジョッキの取っ手は中心位置(高さの半分)よりも下の方についており、これによりビールののどごしが感じられる。取っ手が上にある特製ジョッキは重心が高く不安定になるため傾けにくく、また手や肩に余計な力が入るためのどが絞まりビールがのどを流れにくくなる。
- つまり取っ手が下について傾けやすい500ミリリットルジョッキはパワー不足の日本人でものどごしよく飲めるという利点があった。
- 日本でもポピュラーなラガービールとは別に、イギリスやアイルランドなどで主流のエールビールがある。ジョッキに入れられたラガービールは淡白でゴクゴク飲まれるのに対して、エールビールには風味が強く飲みごたえがあることから取っ手なしのパイントグラスでゆっくり飲まれる。
- 日本でラガービールがよく飲まれるのは和食と相性がいいから。和食は素材をいかした繊細な味付けのため、華やかな香りが強いエールビールではその味を邪魔してしまう。いっぽうラガービールは軽快で雑味が少なく和食の美味しさを引き立ててくれる。つまり日本のビールは、500ミリリットルのジョッキばかりでなくラガービールが主流という点でもドイツの影響を受けている。
- なお、「ジョッキ」というのは、「Jug(水差し)」が訛ってできた和製英語であり外国では通じない、英語では「Mugマグ」、ドイツ語では「Krugクルーク」と呼ばれていると補足説明された。
ここからは私の感想・考察を述べる。
さて今回の当初の疑問は、
●ビールをジョッキで飲むのはなぜ?
であったはずだが、放送では、ビールをジョッキで飲むことを前提とした上で、
●日本人はなぜ1リットルジョッキではなく500ミリリットルジョッキでビールを飲むのか?
あるいは、
●日本ではなぜエールビールではなくラガービールがよく飲まれるのか?
という解説に終始していた。
そうではなくて、まずは
●日本人はなぜコップではなくジョッキでビールを飲むのか?
という根本疑問から説明する必要がある。これについてはおそらく、他のアルコール類に比べてビールは淡白でゴクゴク飲めるため、お替わりの手間を省くために大きな器が使われたためと推測される。
ビールの大型コップに取っ手が付いているのは、単に落とさず持ちやすくするためと思われる。なお映像を見ていると、
- 日本人のほぼ全員は取っ手を掴んで飲んでいる。
- ドイツ人が1リットルジョッキで飲む時は、取っ手は掴まず、取っ手の中に親指以外の4本の指を入れてコップ本体を掴み、取っ手に親指を引っかけて飲む人が多い。その場合、左手でジョッキを持つ人が多い?
という違いがあることに気づいた。これらについて精査する必要がありそうだ。
放送では、明治時代の日本人の平均身長や平均体重が小さいという数値を挙げて、当時の日本人はドイツ人よりパワー不足であったと説明されたが、これまた胡散臭い。ちなみに私の身長は160cmで、現代の日本人の男性平均172cmに比べればかなりの低身長であるが、だからといってジョッキを持ち上げる腕力が身長比ほどに劣っているとは断じて言えない(←加齢による衰えはあるが)。1リットルではなく500ミリリットルが普及したのは腕力の差ではなく、日本人は1リットルを飲み干すほどにはビールを好きではなかったと考えるべきであろう。
なお、今回の「ビール」はもっぱら生ビールであったが、冒頭にも述べたように、「瓶ビールのコップが小さいのはなぜ?」という別の疑問との整合性をはかる必要もある。
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