【連載】チコちゃんに叱られる! 「洗濯物が乾く仕組み」とエントロピーの法則
昨日に続いて、2月9日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- 天狗ってもともと なに?
- なぜ日本のインドカレーにナンがついている?
- なぜ洗濯物は乾く?
という3つの話題のうち、残りの3.について考察する。放送では、洗濯物が乾くのは「水は混んでいるところよりすいているところが好きだから。」が正解であると説明された。草野英二さん(金沢工業大学)&ナレーションによれば、
- 湿っている洗濯物の中にあるのは水。
- 湿っている洗濯物の水の分子が洗濯物の表面から気体になって出ていく蒸発が起こることで乾く。
- 蒸発は低い温度でも起こる。但し、沸騰の場合は水分子は液体の内部からも空気中に出るが、低い温度の場合は水面にある水分子のみが出る。
- 水分子は水の中でも動き回っている。その中には空間中に飛び出す「元気な水分子」もいる。だから低い温度でも、「元気な水分子」が出て行くことで洗濯物は乾く。
- 洗濯物の表面では、『蒸発』ばかりでなく『凝縮』も起こっている。『凝縮』は水蒸気が液体に変化する現象であり、蒸発と凝縮が同程度に起こったとすると(洗濯物から出る水の量と入る量が同じだったとすると)洗濯物は乾かない。
- 実際に洗濯物を干すと『拡散』という現象が起きる。これが洗濯物が乾く秘密。
- 洗濯物の表面は水分子が混んでいる状態。いっぽう洗濯物から離れた空間では水分子が少ない。水分子は混んでいるところよりすいている方に移動する性質があり、どんどん洗濯物から離れていく。
- 水分子の拡散はエントロピーの法則によって起こる。万物には常に均一になろうとする働きがある。
以上から、洗濯物の乾きやすさは以下の条件によって変わる。
- 空間の湿度が高いと拡散が起きにくく洗濯物は乾きにくい。
- 温度が高いと水の分子の動きが激しくなり、空間中に多くの水分子を含めるので洗濯物が早く乾く。
- 乾いた風があると洗濯物の周りにある湿った空気が移動し水分子がどんどん蒸発する。
- 早く洗濯物を乾かすには暖かい・湿度が低い・適度な風が吹いていることが条件。
放送ではさらに草野さんオススメの干し方として円筒干しが紹介された。こうすれば洗濯物の外側だけでなく内側からも拡散され風が通ることで早く乾く。但し、場所をとるというデメリットもある。
ここからは私の感想・考察になるが、放送内容は、
- 水が『蒸発』するので乾く。
- しかし『凝縮』も起こるので、『蒸発』と『凝縮』が同程度では乾かない。
- 洗濯物内部の水分子のほうがそのまわりの空気中の水分子よりも高密度であるため、エントロピーの法則により『拡散』が起こり、結果的に衣類内部の水分子は空気中と同程度の密度になるまで乾燥する。
という三段構成になっていた。であるなら、1.や2.は不要で、いきなり3.だけで説明できたのではないかと思われた。念のためBingに尋ねたところ、以下のような回答をいただいた。
洗濯物が乾く仕組みを科学的に解説しますね。
- **洗濯物は乾いた空気に触れることで水分が気化する**:
- 空気には、**乾き空気**(水分を含まない)と**湿り空気**(水分を含んだ)の2つの状態があります。
- 空気は温度ごとに保有できる水分の量が決まっており、その温度で最大の水分量を含んだ空気を**飽和湿り空気**と呼びます。
- 洗濯物は、この飽和湿り空気から水分を気化させることで乾いていきます。
- **水分の蒸発と拡散をサイクルさせて乾かす**:
- ある温度の空気が含むことができる水分量は、その温度の水の**飽和蒸気圧**によって決まります。
- 水蒸気圧は物質に特有の物性値であり、温度に依存して決まります。
- 水蒸気圧が飽和蒸気圧より低い場合、空気中の水蒸気は気化します。
- この気化と拡散のサイクルにより、洗濯物は徐々に乾いていくのです。
- **洗濯物をより早く乾かすためには**:
- 乾いた温度の高い風を送る。
- 湿った空気をすぐに取り除く。
- 洗濯物の水分を高い温度にする(水の温度を高くする)。
これらの原理を理解して、洗濯物を効率的に乾かしましょう!??
(1) 【空気】洗濯物を早く乾かすには?原理と対策を科学的に解説 .... https://energy-kanrishi.com/humid-air/.
(2) 【空気】洗濯物を早く乾かすには?原理と対策を科学的に解説 .... https://bing.com/search?q=%e6%b4%97%e6%bf%af%e7%89%a9%e3%81%af%e3%81%aa%e3%81%9c%e4%b9%be%e3%81%8f%e3%81%ae%e3%81%a7%e3%81%99%e3%81%8b%e3%80%82.
(3) 洗濯物が乾かないのはなぜ?乾く仕組みと上手な干し方を解説 .... https://www.olive-hitomawashi.com/living/2020/02/post-2698.html.
(4) 洗濯物はなぜ乾く -水が液体から気体に変わるのが100度なのに .... https://oshiete.goo.ne.jp/qa/110725.html.
(5) 部屋干しってホントに乾く?洗濯物がカラッと乾く仕組み .... https://papaichi.com/heyaboshi-starts-environment/.
上記の説明の中の『飽和湿り気空気』というのは聞き慣れない言葉であり何かの誤訳ではないかと思ったが、ネットで検索したところ、ウィキペディアでちゃんと解説されていることが分かった。
- 飽和湿り空気
湿り空気中の水蒸気分圧がその温度の飽和蒸気圧に等しく、それ以上蒸気として水分を含むことができない状態の湿り空気。
- 不飽和湿り空気
飽和湿り空気ではなく、空気中に過熱蒸気が混入している湿り空気。
余談だが、物理現象の説明というのは、諸現象の間の関係式で表されることが多いように思う。Yはなぜ起こるのか?という疑問に対して、
- Xが起こることが知られている。Xはxという物理量で測ることができる。
- Yはyという物理量で測ることができる。
- yとxの間にはy=f(x)という関係が成り立つ
と述べた上で、Yが起こるのは、y=f(x)が成り立つからだと説明するような場合である。確かにXが当たり前の現象であったり、xを観測した上でy=f(x)の関係式に基づいてYの起こり方を完全に予測できるのであれば実用的には十分であり、説明が尽くされたかのように見える。但しその限りにおいては、Xがなぜ起こったのかは何も解明されていない。
元の話題では、洗濯物が乾くのはエントロピーの法則により水分子が拡散するためであると説明されていた。この場合、洗濯物に含まれる水分量、気温、空気中の水蒸気量、風などを正確に測定すれば、その洗濯物が何時間後に乾くか【空気中の湿度と同程度の水分量になるか】は完全に予測できるので実用上は説明が尽くされたことになる。しかしエントロピーの法則(エントロピー増大則)がなぜ起こるのかは何も説明されていない。それを説明するには少なくとも3つの立場があるように思う。
- エントロピーの法則は神が創った。
- 我々はエントロピーの法則が成り立つ世界であればこそ生まれた。宇宙のどこかにはそれが成り立たない空間があるかもしれないが、そういう空間ではすべてのモノは凝縮してしまい【←ブラックホール】、生物は存在しえない。
- 分子はもともとランダムに動き回る性質を持っている。その性質を前提にすれば、期待の拡散や均一化は数学的に証明できる。
このうち1.は宗教家は喜ぶかもしれないが、それ以上の知識は何も生み出せず、思考停止に陥る。
2.は、たぶんその通りだとは思うが、「生物はなぜ誕生したのか?」という問いに「生物が誕生しやすい条件がすべて揃った空間があったから」と答えるようなものであり、「誕生しやすい条件」を具体的かつ詳細に列挙しなければ科学としては意味をなさない。
3.は、おそらく最も科学的なアプローチであるはずだ。専門的なことは分からないが、素粒子やさらに細かいレベルの力の働きから分子のランダムな動きを説明すれば因果関係を明らかにすることができるだろう。【もっとも物質の最小単位や相互に働く力については最終的にはいくつかの仮定を置く必要があるだろうが】
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