じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 ウォーキングの途中、腕時計の文字が全く表示されていないことに気づいた。寒さのせいか、あるいは太陽光が当たらなかったために充電不足になったのかと思ったが、その後太陽に当てても復活することはなかった。
 この腕時計は2011年9月に購入したことが日記の記録に残っており【←日記をつけているとこういうことがすぐに分かり便利なものだ】、その後13年使っていたことになる。
 現役時代は、講義の時間調整や会議の開催時刻を忘れないためなど、腕時計はそれなりに役立っていたが、隠居人生活に入ってからはそれほど時間を気にする必要が無くなっている。また、ウォーキング中に現在時刻を知りたければ、
  • スマホの●ボタンを長押ししたあと「いま何時?」と音声で尋ねる。
  • 歩数計の時刻表示を見る。
  • デジカメの時刻表示を見る。
という、少なくとも3通りの手段があり、腕時計に頼る必要は必ずしもないのだが、長年の習慣で左腕に時計がないと何か忘れ物をしているような感じがしてしまう。

 さてこの腕時計が復活しない場合だが、とりあえずは昨年9月に拾得し12月に所有権を獲得した腕時計を使おうとは思っている。このほか、海外旅行先で大ざっぱな高度や気温の測定ができる腕時計があり、必要に応じて使い分ける予定。




2024年12月3日(火)





【連載】ヒューマニエンス 「“不安” ヒトが“自らつくった”進化のカギ」(4)回避行動の真の原因/グレートジャーニーと不安

 11月29日に続いて、11月25日にNHK-BSで再放送【初回放送は6月1日】された、NHK『ヒューマニエンス』、

「“不安” ヒトが“自らつくった”進化のカギ」

についてのメモと感想。

 放送ではゼブラフィッシュの回避条件づけに続いて、ヒトの先祖の話題が取り上げられた。なぜゼブラフィッシュからいきなりヒトに繋がるのか?であるが、私が理解した範囲ではどうやら
  • ゼブラフィッシュは「ランプ→電気ショック」という対提示によって、ランプが点灯しただけでも不安になる。
  • そこで、ランプを見て不安になったゼブラフィッシュは、不安から逃避するために隣の水槽に移る。つまり、ランプがもたらす不安を利用して、電気ショックという危険を回避できた。
というロジックになっているようだ。前回も述べたが、この実験装置の中でゼブラフィッシュが不安を感じていたという証拠は「ランプが点灯すると目で受容した危険信号が脳に送られ、手綱核が活性化して縫線核に伝わり、不安に対抗する物質セロトニンが放出される。」ことにあるようだ。セロトニンが出たというのは不安があったからだ、不安が無ければセロトニンは出ないはずだというロジックなのだろう。
 しかし、ここは徹底的行動主義の立場から言えば、回避行動の直接の原因は不安ではない。隣の水槽に移ったのは「不安になったから」ではなく「ランプが点灯したから」なのだ。
 もちろん、ランプが点灯したからといって回避行動が100%生じるわけではない。どのくらいの確率で生じるか、どのくらいの潜時やスピードで生じるかということは、ランプという刺激がどれほど行動を制御できる機能を獲得したのかによって決まってくる。それを左右するのは、ランプと電気ショックの対提示の回数、電気ショックの強さのほか、ゼブラフィッシュ側の疲労なども影響してくる。その諸要因の中には脳内のセロトニン放出量も含まれているとは思われる。しかしそれら諸要因は、行動の程度を左右するものであり、行動の原因とは言えない。

 前回も同じようなことを述べたが、例えば車を運転中に信号が赤に変わったり、横断歩道を渡っている人が見えればブレーキを踏む。その際、ブレーキを踏む原因(正確には弁別刺激)は赤信号や横断者にある。事故が起こるかもしれないという不安が原因となってそれから逃れるためにブレーキを踏んだわけではない。そもそも、赤信号や横断者を見るたびに不安になっていたのでは運転などできない。

 なお、上記の部分で「逃避」と「回避」の区別が分かりにくくなっているが、
  1. 「ランプ→電気ショック」という対提示を経験したあと、ランプが点灯しただけで隣の水槽に移るようになった場合;
    ランプが嫌悪刺激として条件づけられ、「逃げる→嫌悪刺激消失」、「逃げない→嫌悪刺激あり」という「嫌子消失の随伴性」によって逃避行動が形成された。
  2. 最初から、ランプ点灯のもとで、「逃げる→電気ショックなし」、「逃げない→電気ショックあり」という条件づけが行われた場合は、ランプが弁別刺激となり、「逃げる→安全」、「逃げない→電気ショックあり」という「嫌子出現阻止の随伴性」によって回避行動が形成された。
というように区別できる。但し2.の手続のもとでも逃げない場合に「ランプ→電気ショック」が体験されるので、動物実験のレベルでは純粋な回避行動だけを形成できるかどうかは何とも言えない。
 いっぽう、人間の場合は、何十年も無事故で車の運転を続けている人もいる。崖から一度も落ちたことの無い人でも、「この先絶壁ある危険」という立札があればそれ以上先には進まない。このように人間では、ルール支配行動の一環として、一度も直接体験をせずに回避行動を形成することができる。




 ということで、ゼブラフィッシュの実験からヒトの先祖の話題に移ることについてはイマイチ納得できないところがあったが、とにかく放送では、スタジオ解説者の河田雅圭さん(東北大学)による「我々ヒトの祖先も不安を利用して危険を回避していた」という説が紹介された【要約・改変あり】。
  1. およそ700万年前、私たちは比較的安全な森の中で木の実などを採って暮らしていた。
  2. 気候変動により森が減り、サバンナに生活の場を変えざるを得なくなった。この時、不安を抑える物質に関わる遺伝子に変異が生じた。アミノ酸配列で不安を抑える物質に関わるのは136番目であり、サルの仲間では「N」であったが、ヒトではそれが「T」に代わった。
  3. 不安を抑える神経物質の放出量(相対値)を他の霊長類と比較すると、ヒトではその値が少なくなっている。つまり不安を強く感じるようになったと考えられる。
  4. (木の実などを食べる森の生活からサバンナでの)狩猟採集生活に移行したときに、捕食者から逃れられない不安を感じたり、食物を確保しなければという不安を増大させることが生存に有利な働きをもたらした。
  5. その後ヒトは様々な道具を使うことで、サバンナでも危険の少ない生活を築きあげていった。
  6. すると10万年前、一部の人で「T」が「I」に代わる変異が生じた。「I」に代わった人は、「N」の人よりも不安を抑える物質を多く放出するようになった【=不安を感じにくいタイプ】。
  7. 世界的な分布をみると、不安を感じにくいタイプの人の割合は、
    • アフリカでは1割〜2割。
    • 日本を含むアジアでは3割〜4割。
    • アメリカ大陸では5割を超えているところもある。
    というように大きな偏りがある【データ提供は、千葉大学・佐藤大気】。
  8. 未知の世界に移住する際、不安を感じにくいヒトが率先して前進することが有利になった。その結果として(アフリカからの)距離が長くなるに従って不安を感じにくいヒトが子どもを残していくことによって、不安を感じにくいヒトの遺伝子が増大した。
  9. 5万年前から6万年前のグレートジャーニーでヒトが世界中に住むようになったのも不安が影響している。

 ここでいったん私の感想・考察を述べさせていただくが、最近視聴した『チコちゃんに叱られる』で、

2024年11月22日初回放送おそろいにしたくなるのは島国に移住した日本人の不安が高いから

という説が披露されていたが、今回、佐藤大気さん(千葉大学)から提供されたデータを見ると、日本人の「不安を感じやすいタイプ」の比率は75%弱で中国やヨーロッパ諸国の比率と大差がないように見えた。

 なお136番目の遺伝子の変異については、ヒューマニエンスの

「“快楽” ドーパミンという天使と悪魔」その11 新しい環境へのチャレンジとドーパミン量

でも取り上げられていた。その時の解説者も河田雅圭さんであり、今回とほぼ同じ内容であったが、全体のテーマの文脈上、前回はドーパミン、今回は不安に焦点があてられていた。

 世界の各地域の比率が異なる事例としては、ABO血液型の分布がある【2024年10月24日の日記参照】。この場合、比率に違いがあるのは、感染症に対する免疫機能が異なるためであると言われており、このことは当然、グレートジャーニーにも影響してくるだろう。もっとも、ABO血液型と136番目の遺伝子が「I」であることの間に何らかの対応があるのかどうかは分からなかった。

 次回に続く。