じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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§§ 2008年版・岡山大学構内の紅葉(28)落ちないアメリカフウ

 岡大七不思議(←長谷川が勝手に選定)の1つ、時計台前の前の「落ちないアメリカフウ」が今年も目立つようになってきた。この樹の写真はほぼ毎年掲載している。いかにリンクあり。


12月19日(金)

【思ったこと】
_81219(金)[心理]日本園芸療法学会第1回大会(6)

 5番目の発表は、特定不能型摂食障害のため入院している12歳女児に対する植物介在療法の症例報告であった。この女児の母親は、児の出生以前から統合失調症を発症していると推定され、かつ未治療の状態で育児を行ったために、母親の尋常でない言動によって心的外傷を重ね、パニック的な激しい自傷行為、さらに、自殺企図、摂食障害、発話困難といった症状がおこるようになった。報告を拝聴した限りでは、退院して家に戻されることが最大の恐怖であり続けたようにも見えた。

 この女児に対する植物介在療法(挿し木、苔玉、サツマイモケーキ、ハーブ類の世話、野菜の世話、土作りなど)は、ラポール形成から積極的な治療導入の段階へと周到に計画され、週1回程度(ラポール形成段階では2週に1回)実施された。その結果、
  1. 植物介在療法のセッションが安全な時間・空間となり心身の安定をもたらした
  2. 植物への働きかけとそのゆるやかな反応が児にマッチし、喜びをもって環境に関わることが体験され、人間との非言語的・言語的コミュニケーションの再構築の基礎になった
  3. 制作や植物を育てる作業を通じて成功体験を重ね自尊心の回復をもたらした
  4. 共同作業や成果を他の人と分かち合うことで、社会的存在としての“生きがい”を少しずつ形成。
というような成果が示唆され、また、当人も「木のお医者さんになりたい」と語ることがあったという【以上、抄録から、長谷川が要約引用】。

 以上の症例はかなり衝撃的な内容を含んでおり、私がこれまで拝聴した園芸療法・植物介在療法の事例の中では、最も程度の重いレベルにあったと言ってよいと思う。

 医療に関する専門的なことは分からないし、また、薬物投与を含め、種々の治療が総合的に行われていたことからみて、上記の改善が主として植物介在療法によってもたらされたかどうかは何とも言い難い。また、根本原因と思われる母親との関係、あるいは母親自身の治療は、ここで紹介された植物介在療法とは直接連携していない。しかし、植物介在療法として実施された各種作業が、当人の生活諸行動の中にうまく組み込まれ、前向きで安定した行動の歯車の1つとして機能するようになったことは間違いない。

 何度も表明していることの繰り返しになるが、園芸療法を単独で切り離して効果を検証しようとしても、きわめて局所的、断片的、短期的な成果の確認しかできないことが多い。それよりも、
  • 園芸活動という歯車を、日常諸行動の歯車の1つとしていかにうまく組み込むか。
  • 園芸活動を他の日常諸行動とどれだけ関連づけ、全人的視点、長期的視点に立ったQOLの向上に繋げるか
といった検討にエネルギーを注いでいくことが、生産的な研究につながっていくように思う。

 次回に続く。