じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 4月7日の岡山は前日夜から15時頃まで雨が降り続き、積算降水量は40ミリとなった。その後、日没の頃には雲が切れて、19時過ぎの西の空には金星と水星が輝いていた。
 水星は4月12日に東方最大離角となるが、金星が遙かに高いところに見えているため、水星と金星が接近することはない。

2023年4月8日(土)



【連載】チコちゃんに叱られる!『食パンを焼くとおいしくなるのはエントロピー増大の法則』とChatGPTの反論

 4月7日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、
  1. なぜ食パンを焼くとおいしくなる?
  2. なぜバランスの悪い一輪車に乗るようになった?
  3. なぜノイズキャンセリングは騒音を消せる?
という3つの話題が取り上げられた。本日はこのうち1.について考察する。




 さて、食パンの話題であるが、私は、過去の放送: という2つの原理によりすでに説明が尽くされていると思っていた。しかし、今回の放送では、メイラード反応がもたらす香ばしさに加えて、

●「『エントロピーの法則』があるため」に「もっちり、ふんわり感」が生じる。

という新たな説明があった。山田昌治先生(工学院大学)によれば、「もっちり感」が生じるのは、パンの中のデンプンが水分を取り込むためである。パンを焼くと表面の水分が(一部は蒸発するが)中心に集まってくるようになるが、これはエントロピー増大の法則によるもの。すなわち、パンを焼くと表面は高温で中心部は低温となって温度差が生じる(整理された状態)。そうするとエントロピー増大の法則によって熱は高音部分から低音部分に移動する。熱は(パンや空気を)伝わるよりも、水分を伴うと早く移動できる、つまり表面の温まった水分がパンの中心に集まるようになり、もちもちの水分となる、と説明された。

 放送ではエントロピー増大の法則の例として、
  • コーヒーにミルクが混ざる過程(混ざったコーヒーミルクが再び分離することはない)
  • きれいに整頓された室内はしだいに乱雑になる(自然に整頓されることはない)
  • 芳香剤のニオイ成分が部屋全体に均一に広がる現象(ニオイ成分が再び容器に収まることはない)
  • 整列していた子どもたちが、先生がいなくなるとバラバラになる現象(先生が戻ってくるといった外部からの力が加わらない限りは自然に整列されることはない)
が挙げられた。

 ここからは私の感想・考察になるが、エントロピーに関してはこのWeb日記でも何度も取り上げたことがあり、いくつか抜粋すると、
  1. 2022年2月16日:コズミックフロント「宇宙をひらく 究極の“時間”に迫れ!」(4)運動法則の中に「時間の矢」は無い
  2. 2022年2月6日:令和の寺子屋「生命って何だろう 生物学者・福岡伸一」その6 全ての生物はなぜ死ぬか(3)エントロピー増大の法則は喩え話か?
  3. 2009年5月16日:暗黒に支配される宇宙(4)宇宙の形とポアンカレ予想
  4. 2007年3月13日:第一回構造構成主義シンポジウム(3)池田氏の第一印象/養老孟司氏の特別講演(1)
などがある。
 エントロピー増大の法則は自然界の全ての存在に適用されるが、それに抗うように整理整頓を続けているのは生物であると言える。このあたりは福岡伸一先生がしばしば強調されており、たぶんそうだろうとは思う。但し、

エントロピー増大則で大事なのは「断熱系」という言葉で、エントロピー増大則は無条件で成立するわけではなく、断熱系、すなわち外界と熱のやりとりがない環境でのみ成立する。

という点に留意する必要があり、こちらの日記で指摘したように、熱力学におけるエントロピー増大則をそれ以外の諸現象と結びつけるには慎重な配慮が求められるように思われる。でなければ、あくまで喩え話、あるいはメタファーとしての使用にとどめるべきであると思う。 今回の放送でも例示された「整理整頓された部屋が乱雑になっていく」というのは喩え話であって、
机の上のモノが乱雑化するのは、あくまでそれを使っている人の行動の結果である。エントロピー増大則が働くのは、その机が何百年、何千年も経った時の経年変化の範囲であるが、その場合でも、机の上に溜まるホコリとか、外からの紫外線、さらに空気の流れ、酸化、引力などの働きを考慮するべきである。いっぽう、使っている人の行動によって机の上が乱雑化するのはエントロピー増大則とは関係が無い。机の上で作業をする時に、その時その時で机の上のモノを邪魔にならないように動かす時、本来の置き場所と異なるところへランダムに動かすために乱雑になる。なので、机の上にディスプレイとキーボードしか(もしくはノートパソコン1台のみしか)置かれていなければ、乱雑化することは決して無い。
というように考えるべきであろう。

 元の話題に戻るが、今回の放送では、
  1. 熱は高温から低温に移動する。
  2. 熱はパンや空気を伝わるよりも水分を伴う方が早く移動できる。
  3. 温度差をなくすために表面の温まった水分が中心に集まる。
  4. 結果として中心部分に水分が集まりもちもちとした美味しい食感になる。
と説明されていたが、上記の2.と3.の部分は、要するに熱エネルギーという司令官がパンの内部を均一の温度にするために水分という部下に中心部に移動するように命令しているように受け止められる。しかし素朴に考えると、水分子はもっと自由に動き回っているようにも思われる。であるなら、もっと単純に

●パンが焼かれると、その熱で水分子が活発化してパン内部のほうに移動するため、もっちり感が増す

というように説明することも可能ではないかと一瞬思われた。しかし、焼く前のパンの水分は、外部と内部では均一化しており、むしろパンの外側のほうが乾燥しているような気もする。であると、熱で活発化すればするほど、パン内部の水分子はより乾燥した外側のほうに移動するはずでこれでは「温かくなった表面の水分がパンの中心に集まる」ことを説明できない。やはり、熱の移動に伴って水分も移動すると考えるべきなのだろうか、よく分からない。

 ということで、ChatGPTに

食パンを焼くと、パンの外側の水分が中心部に移動して「もっちり感」が増すと言われています。なぜ水分は中心部に移動するのでしょうか?

と質問したところ、
食パンを焼く際に、高温で焼くことによって表面が乾燥し、パンの内部から水分が蒸発しています。この過程により、パンの内部の水分濃度が高くなり、外側の水分が内側に移動します。
また、焼き上がったパンが冷めると、内部の水分が再度表面に移動し、内部と表面の水分量が均一化されることで、パンのもっちり感が増します。このような現象を「熟成」と呼びます。
さらに、パン生地にはグルテンというタンパク質が含まれており、焼くことによってグルテンが硬くなってパンの形を保ちます。この硬化したグルテンは、内部の水分を保持する働きもあり、パンのもっちり感を増す要因になります。
以上のような理由により、食パンを焼くと表面の水分が中心部に移動して、もっちり感が増すのです。
という回答をいただいた。さらに、

この現象にはエントロピー増大の法則が働いていますか?

と尋ねたところ、
この現象にはエントロピー増大の法則が働いています。
エントロピー増大の法則とは、自然界のあらゆる系において、時間が経過するにつれてエントロピー(乱雑さ)が増大するという法則です。この法則は、熱力学第二法則の一つとして知られています。
食パンを焼く過程で、内部から水分が蒸発して外側に向かって拡散することで、パン全体のエントロピーが増大します。また、焼き上がったパンが冷めると、内部と表面の水分が均一化することで、パン全体のエントロピーが増大します。
したがって、食パンを焼く現象はエントロピー増大の法則に従っていると言えます。
という回答をいただいた。
 上記のやりとりで気づいたが、私は「パンを焼く」というのを「買ってきたパンをトースターで焼く」という意味で使っていたが、ChatGPTのほうは、パンを作るという意味で「焼く」と理解していたようであった。そこで、

買ってきたパンをトースターで焼く場合、パン内部の水分はどのように移動しますか?

と尋ねたところ、
買ってきたパンをトースターで焼く場合、外側の表面が高温で焼かれるため、表面から内部に向かって水分が移動します。具体的には、高温によってパンの表面の水分が蒸発し、その水蒸気が内部に向かって移動します。
一方、トースターでの焼き時間が短い場合や、パンが乾燥している場合は、パン内部の水分はあまり移動しないかもしれません。そのため、焼き加減やパンの状態によって、水分移動の程度は異なることになります。
また、トースターで焼く場合には、短時間で高温になるためにパンの表面に焼き色がつきやすくなります。この焼き色がついた表面によって、内部の水分が蒸気として外に逃げにくくなり、さらに内部の水分の移動が促進される場合があります。
つまり、トースターで焼く場合にも、焼き上がりの状態や焼き時間によって、パン内部の水分の移動度合いが変わってくるということになります。
と説明してくれた。

さらに、

この場合の水分の移動は、エントロピー増大の法則に従っていますか?

と尋ねたところ、
トースターで焼いたパンにおいても、内部から外部への水分の移動や水分濃度の均一化が起こり、その過程にはエントロピー増大の法則が働いています。
トースターで焼くと、外側の表面が高温になり、水分が蒸発して水蒸気となります。この水蒸気は、パンの内部に向かって拡散し、内部の水分と混ざります。このような過程によって、パン全体のエントロピーが増加し、乱雑さが増すことになります。
また、トースターで焼く際には、パンの表面に焼き色がついて、表面の硬化や水分の蒸発が促進されます。これによって、内部の水分が表面に逃げるのを防ぎ、内部と表面の水分濃度が均一化されるのを防ぎます。しかし、焼き過ぎると、内部の水分が失われてしまい、パンが乾燥してしまうことになります。
したがって、トースターで焼く場合でも、パンの内部の水分の移動にはエントロピー増大の法則が働いていると言えます。
と回答された。しかしここで指摘されているのは、「内部から外部への水分の移動や水分濃度の均一化」であって、放送内容とは逆方向の移動になっている。熱エネルギー自体は外部から内部に移動するだろうが、水分子はやはり内部から外部に移動するのではないだろうか? ますます分からなくなってきた。

ということで、もう1つ、

トースターでパンを焼いた場合、パンの外側から内部に向かって水分が移動するという説がありますが、これは本当でしょうか?

と尋ねたところ、
トースターでパンを焼く場合、パンの外側から内部に向かって水分が移動するという説は一般的には正しくありません。実際には、トースターで焼いた場合、パンの表面から水分が蒸発して表面が乾燥し、表面と内部の水分の差が増えることで、内部から表面に向かって水分が移動する傾向があります。
具体的には、トースターで焼くとパンの表面が高温になり、表面の水分が蒸発して水蒸気となります。この水蒸気が内部に向かって拡散し、内部の水分と混ざります。また、焼き色がつく表面によって内部の水分が蒸気として外に逃げにくくなり、さらに内部の水分の移動が促進されます。
しかし、表面から内部に向かって水分が移動するというよりも、内部から表面に向かって水分が移動すると考えた方が正確です。パンの内部には水分が多く含まれているため、内部と表面の水分濃度の差が大きくなると、内部から表面に向かって水分が移動することになります。この過程でも、エントロピー増大の法則が働いています。
したがって、トースターで焼く場合、パンの内部から表面に向かって水分が移動する傾向があることを覚えておくと良いでしょう。
という回答をいただき、今回のチコちゃんの説明は否定されてしまった。

 次回に続く。