じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 岡山では11月7日以降3日連続で最低気温が10℃を下回っており、11月9日の朝には5.5℃を記録した。
 これに伴い、バルコニーに出しっぱなしにしていた鉢物のうち、特に寒さに弱いものを室内に取り込んだ。


2024年11月9日(土)





【連載】あしたが変わるトリセツショー『がん対策』(5)がん原因の%表示は何の値?/検診の陽性的中率

 昨日に続いて、10月17日(木)に初回放送された、

がん対策

についてのメモと感想。但し、昨日同様、放送内容から外れて、以下の点について考えを述べることにする。
  1. がんの予防・治療と免疫力
  2. 「がんの原因の何パーセントは××」という表現の確率的な意味
  3. 検査の感度、特異度、陽性的中率

 1.については昨日取り上げたので、本日はまず、2.の「がんの原因」についての考察。がんの原因はしばしば確率で表される。例えば11月7日の日記では放送で紹介された:
  • これまでがんの原因としては「遺伝」が約5%、お酒やタバコ、運動不足といった「環境要因」が約29%」であるとされてきた。
  • 32種類のがんについて解析したところ、がんの原因の約66%が、「細胞分裂によるコピーミス」であると分かった。
といった研究を引用した。また、11月5日の日記では、押川先生の動画からの孫引きになるが、
  • 予測可能ながんの原因は、男性の場合、能動喫煙23.6%、感染【肝炎、ピロリ菌など】18.1%、飲酒8.3%などとなっているが、全部を合計しても43.4%しか分かっていない。
  • 女性の場合は、予測可能な原因は全体の25.3%に過ぎないその中で確率が高いのは、感染14.7%、能動喫煙4.0%、飲酒4.0%などであるが、食事の影響はやはり数%以下に過ぎない。
というデータを引用させていただいた。

 私の疑問は、これらの確率が何を意味するのか? どうやって計算されたのか? という点にあった。素朴に考えると、これらは、例えば、

●がん患者(男性)1000人を調べたところ、能動喫煙が原因だった人が236人、感染が原因だった人が181人、飲酒が原因だった人が83人であった。

という意味にもとれるが、ちょっとおかしい。なぜなら、がん患者それぞれの原因は特定できないからである。また、例えば、喫煙者で飲酒をするというように、複数の原因が重複する人も少なくないはずだ。

 ということで閲覧可能な文献として、

Tomasetti & Vogelstein(2017).Stem cell divisions, somatic mutations, cancer etiology, and cancer prevention. Science, 355, 1330-1334.

にあたってみたが、専門用語が多くて理解困難であった。おそらく、統計学に出てくる『説明率』とか『寄与率』のようなものではないかと推測されるが、知識不足により何とも言えない。いずれにせよ、例えば「能動喫煙23.6%」というのは、がん患者(男性)の23.6%が能動喫煙者であったという意味ではない。数値だけが一人歩きしてしまうと誤解を生む恐れがある。




 3.の「検査の感度、特異度、陽性的中率」というのは、押川先生が最近配信された、

線虫がん検査陰性の人は逆に危険?医事問題シリーズ

の中で登場した概念であり、
  • 感度:病気のある人を正しく、「病気がある(陽性)」と判定できる割合。
  • 特異度:病気のない人を正しく、「病気がない(陰性)」と判定できる割合。
  • 陽性的中率:感度・特異度・有病率を使って導き出された、「陽性判定後、精密検査を受けてがんと診断される確率=がんを正しく診断できる確率」
というように解説されていた。信号検出理論と同じ考え方と言ってよいかと思う。

 リンク先の動画では、感度と特異度の数値が高い方が「精度が高い」と言えること、但し、有病率が高いと精度が上がってしまうことが指摘された。陽性的中率を算出する際に、がんと診断された人たちとか有病率が高い集団【←例えば何らかの自覚症状があったり別の検査で陽性になったために検査を受けに来た人たち】だけのデータを使えば見かけ上は精度が高くなるという。

 今回の放送ではがん検診の重要性が強調されていたが、自治体などが実施している検診の感度、特異度、陽性的中率はどうなっているのだろうか?
 11月6日の日記に引用したように、国は肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮けいがんの5種類の検診が推奨している。しかし、このうちの最初の3つについては、
  1. 肺がんのエックス線検査:海外では推奨されていない。日本ではかつて結核の罹患が多かったので企業検診としてレントゲン検査が行われておりその名残。アメリカやヨーロッパの諸外国では、肺がんのスクリーニングとしてレントゲンを行うことは推奨されていない。低線量CTのほうがオススメ。
  2. 胃がん:2022年に日本消化器がん検診学会が発表したデータによれば、胃がんの発見率は、胃カメラで検査した人のほうがバリウムで検査した人に比べて2.5倍も高かった。しかも、バリウムで異状が見つかった時は胃カメラで再検査するので二度手間になる。
  3. 大腸がんの便潜血検査:潜血検査で陽性と判定された時にはすでにがんが進行している場合がある。
といった問題があるように思う。このほか、腫瘍マーカーの数値は、がんにかかっていても正常範囲におさまる場合がある。自治体の予算が限られていることや、大人数が受検するための人員・施設の確保の問題もあり、必ずしも「陽性的中率」の高い検診が行われているとは限らない。保険適用にならない場合もあるし、あまり頻繁に検査を受けるとそれ自体の弊害もあるので、適切な検診がどういうものかは一概には言えないが、私自身は可能な限り精密な検査を受けるように心がけている。


 次回に続く。