【連載】チコちゃんに叱られる! 『ズボン』と『パンツ』
昨日続いて、1月31日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- 人見知りするのはなぜ?
- なぜ下着もズボンもパンツという?
- 「仕出し」と「出前」なにが違う?
とい3つの話題のうち2.について考察する。
さて2.の疑問だが、放送では冒頭で
●下着のこともズボンのことも『パンツ』と言いますよねえ。なぜどちらも同じパンツなのか、考えたことありますか?
というように疑問が提起されたが、これは正確な表現ではないと思う。少なくとも私自身は、ズボンのことをパンツとは呼ばない。後述するが、衣類に関する私の辞書に載っているのは、『ズボン』と『パンツ』の2語のみ。他に使うとしても、『ズボン下』、『半ズボン下』程度に限られている。もっとも私と同じ世代(70歳代)の人たちの語彙も同じかどうかは分からない。高齢者でもファッションに関心のある人はもっといろいろな使い分けをしているのではないかと思われるが、私はファッションに無関心であることに加えて、『流行』とか『最先端のファッション』といったものを押しつけられることを極端に嫌っているので、子どもの頃に習った『ズボン』と『パンツ』の区別を今の時代に合うように修正しようとは全く思わない。なおファッションばかりでなく、例えば私は「ら抜き言葉」は絶対に使わないし、「やばい」とか「めっちゃ○○だ」と言った表現も決して使わない。ということで、今回の放送で取り上げられた疑問は、私自身にとっては何を言いたいのか分からないところがあった。
前置きが長くなったが、下着もズボンもパンツというのは【←私はそうは言わないぞ】、放送では「イギリスのパンツとアメリカのパンツだから」であると説明された。
ズボンの歴史に詳しくがきデカの大ファンの辻元よしふみさん(服飾史研究家)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。なお辻元さんは昨年12月のほか、服飾ネタで何度か登場されている。
- 下着の『パンツ』はイギリスから、ズボンの『パンツ』はアメリカから入ってきた言葉。
- 17世紀頃、フランスでは主に貴族はキュロットと呼ばれる半ズボンを、労働者である市民はパンタロンと呼ばれる長ズボンをはいていた。しかし、18世紀末のフランス革命で階級社会が崩壊したのをきっかけに、それまで市民がはいていた長ズボン『パンタロン』の方が主流に。そして、フランスではズボン全般を『パンタロン』と呼ぶようになり、これがイギリスに伝わった。
- イギリスではキツめのパンタロンとゆるめのパンタロンが存在したが同じ名前だとややこしいということで、ゆるめの方を『トラウザーズ』と呼ぶようになった。
- その後、パンタロンはピチピチすぎて窮屈だということでトラウザーズの方が主流になり、やがてズボン全般を『トラウザーズ』と呼ぶようになった。
- パンタロンはピチピチなので下着をはかないが、トラウザーズは下着をはく。こうして、トラウザーズの下にはくようになった下着のことを「まるでパンタロンと同じように肌の上に直接はく」という意味からパンタロンを略した『パンツ』と呼ぶようになった。今でもイギリスでは下着を『パンツ』、ズボンを『トラウザーズ』と呼んでいる。
- アメリカでは18世紀末にイギリスからパンツ(下着)とトラウザーズ(ズボン)が伝わる。ところが、トラウザーズという言葉が「長い」、「堅苦しい」、「ダサい」ということでアメリカ人に馴染まず、ズボン全般を『パンツ』、下着全般を『アンダーパンツ』と呼ぶようになった。
- 日本で使われているズボンという言葉は明治時代に生まれた言葉。諸説あるが、幕末にフランス軍が下着を意味する『ジュポン』を持ち込み、それが変化したのが『ズボン』になったと言われている。
- 幕末の日本人男性はふんどしなどをはいていたため、二股に分かれた下着に馴染みがなく、本来下着を意味する『ジュポン』は下着ではなく二股の形の服の呼称だと勘違いされて『ズボン』が使われるようになった。
- 下着を意味する『パンツ』という言葉は明治時代にイギリスから伝わった。この時点ではまだ日本では「下着がパンツ、外側にはくものがズボン」と区別されていた。
- 1980年代になると日本でアメリカンファッションが流行。これによりアメリカから『ズボン』を意味する『パンツ』が伝わり、アパレル業界が『セクシーパンツ』、『ニットパンツ』というように急に『パンツ』を使うようになって全国に広まった。
- こうしてイギリスの『パンツ(下着)』とアメリカの『パンツ(ズボン)』の両方を取り入れてしまったために、下着とズボンのどちらも『パンツ』と呼ぶようになった。
放送では続いて、『ややこしいズボン』3種が紹介された【要約・改変あり】。
- スラックス:
「ゆるい」という意味がある。ウェスト部分に『タック』というヒダが入っているのが本来の姿だが、いまアメリカではズボン全般を指す言葉になっている。
- ジーンズ:
厳密な定義はないが、一般的にポケットにリベットを打ったデニム生地のズボンのことを言う。なお『Gパン』は「ジーンズパンツの略」だとも言われているが、辻元さんによればこれは後付けの説明。ジーンズがアメリカに入ってきたのは戦後まもなくのことであり、その頃アメリカ兵は『Government Issue』、略して『G.I.』と呼ばれており、その『G.I.』が持ち込んだことから『Gパン』になったのではないかと辻元さんは考えている。
- フレアパンツ:
膝下から裾にかけて広がっているズボン。ラッパのような裾の形から『ラッパズボン』とも呼ばれている。1970年代に世界的に流行。別名『パンタロン』。上記のようにもともとイギリスで「パンタロンはピチピチすぎて窮屈だということでトラウザーズの方が主流になった」という経緯からみて、本来はピタっとした細いズボンを意味するはずであり、なぜこれが日本でだけの言い方として『パンタロン』と呼ばれるようになったのかは謎。
- 【補足説明】フランスの『パンタロン』は16世紀にイタリアで始まった演劇『コメディア・デラルテ』に登場する『パンタローネ』のズボンが語源と言われている。
ここからは私の感想・考察を述べさせていただくが、まずウィキペディアでズボンとパンツ(下着)をざっと調べてみたところ、上掲の放送内容以外に以下のような情報があった【要約・改変あり】。
- ズボン
- 現在は、ファッション業界を主として、英語圏内で現在主に流通している「pants」(「pant」の複数形)に即してパンツという呼び方も勢力を増しつつあるが、一般的な日本語としては「ズボン」という呼び方のほうが主流である。
- 「ズボン」の語は、フランス語で「ペチコート」の意味の「jupon」から来ている説、穿くときにする音の擬音「ズボン」から名称ができたという説があるが、正確な由来は分かっていない。日本での当て字は洋袴である。
- 構造は単純であり、古代から存在した。世界最古のズボンは、中国タリム盆地の墳墓から見つかった3,300年前のもので、遊牧民が馬に騎乗する際に着用していたものと考えられている。
- 日本でも、3世紀頃より直垂というズボンと同じ形式の着物が存在した。
- 英語のTrousersが単数形ではなく複数形なのは、15世紀に男性たちが着用していた別々のホース(hose:中世貴族が着ていたタイツ)がその起源だからである。
- 中国語では『ころもへん』に『庫』
- パンツ(下着)
- 【パンツは、ズボンと下着という】2つの意味で使われるため、どちらの意味で使われているかは文脈などから判断しなければならない。日本語においては、ズボンを「パンツ」(平板型アクセント)、下着を「パンツ」(頭高型アクセント)と発音して区別したり、下着のパンツを特に「アンダーパンツ」と発音したりする。
-
- 日本では、1970年代までは女性の下着を指す言葉として「パンティー」が一般的であったが、1980年代後半ぐらいから男女・年齢の区別なく使われる「パンツ」が広く用いられるようになった。日本の下着業界では、女性用・女児用を「ショーツ」と呼称している。(※英語で「shorts」といえば半ズボンの意味になるので注意。)なお、子供用については男児用は「パンツ」、女児用は「パンツ」または「ショーツ」と呼ばれる。
- ブリーフ、ボクサーブリーフ、トランクスなどの呼称もある。
- 中国語では『内◆』。『◆』は『ころもへん』に『庫』。
冒頭にも述べたが、私自身は頑固一徹、「衣類に関する私の辞書に載っているのは、『ズボン』と『パンツ(=下着)』の2語のみ。他に使うとしても、『ズボン下』、『半ズボン下』程度に限られている。」という呼称を守り通している。
『ズボン』の一種の『スラックス』や『パンタロン』はいずれも女性の服のことだと思っていた。しかし、ひょっとしたら毎日はいている私のズボンはスラックスなのかもしれない。
下着のパンツについては、以前にも何度か取り上げたことがあった。
スーパーやホームセンターの売り場では『パンツ』ではなく『ブリーフ』や『トランクス』という呼称が使われていることが多く、どこでパンツが売られているのか迷うことがある。念のため、Copilotに「下着の『パンツ』と『ブリーフ』と『トランクス』はどのように区別されていますか?」と尋ねたところ、以下のような回答をいただいたが、何だかあやしい。
- パンツ(Panties):
通常、女性用の下着を指します。
デザインや素材、カットのバリエーションが豊富です。例:ビキニ、ボーイショーツ、ヒップスターなど。
素材も綿、シルク、ナイロンなどさまざまです。
- ブリーフ(Briefs):
主に男性用の下着を指しますが、女性用も存在します。
フィット感があり、太もも部分が覆われていないのが特徴です。
通常はウエストから上部が三角形の形をしています。
- トランクス(Trunks):
男性用の下着を指し、ブリーフよりもゆったりとしたフィット感があります。
太もも部分が覆われており、短パンのような形状です。
通気性が良く、リラックスした着心地を提供します。
- それぞれの特徴や用途が異なりますので、自分の好みに合ったものを選ぶと良いですね。
ついでながら「下着の『ズボン下』、『ももひき』、『すててこ』はどう違いますか?」と尋ねたが、この回答もイマイチあやしいところがある。
- ズボン下(Zubon-shita):
ズボンの下に履く長ズボン型の下着。
保温性が高く、寒い季節に重宝されます。
通常は薄手の素材で作られており、重ね着がしやすい。
- ももひき(Momohiki):
太ももまでの長さのズボン型の下着。
昔ながらの日本の伝統的な下着で、股引(またひき)とも呼ばれます。
通気性と動きやすさが特徴で、作業着の下に着用されることが多い。
- すててこ(Suteteko):
太ももの中間くらいの長さのズボン型の下着。
夏場に涼しく過ごすための下着として人気があります。
速乾性があり、汗を吸い取るため、蒸れにくい。
もう1つ、私が子どもの頃は、女の子の下着として『ズロース』という呼称があったが、いつの間にか全く耳にしなくなった。『パンティー』との違いについて尋ねたところ、以下のような回答をいただいた。
- ズロース(Bloomer):
伝統的な下着で、主に大正時代から昭和初期にかけて女性が着用していました。
ズロースは足首まで覆うような長めのデザインで、リボンやレースで飾られていることが多いです。
通気性があり、ゆったりとしたフィット感が特徴です。
- パンティー(Panties):
現代の女性用下着で、さまざまなスタイルとデザインが存在します。
パンティーはビキニ、ボーイショーツ、タンガ、サイドタイなど多様なカットがあります。
素材や色、デザインも豊富で、機能性とファッション性を兼ね備えています。
- つまり、ズロースは古風で長めのデザインが特徴なのに対し、パンティーは現代的で多様なスタイルがあります。どちらも快適さと使いやすさを提供する下着ですが、そのデザインや用途には違いがあります。
ウィキペディアによれば『ズロース』は以下のように説明されていた。『ロリータ・ファッション』用語にもなっているらしいので、大っぴらには口にしないようがいいのかもしれない。
- 英語: drawers
- 女性用の下着の一種であり、腰回りのゆったりした半ズボン状の形で、スカートの下に着用した。下着の中では比較的緩やかな構造で、横サイドが長く履き込みも深い。
- 日本では1920年代後半、浅草の興行界で風紀の乱れが進んだことから、警視庁は1930年に通称「エロ取締り規則」を発出。演劇の演出上、ズロースを着用する場合には股下二寸未満のもの、肉色(ママ)のものが禁止されることとなった。
- 1932年、白木屋デパートで火災が発生、墜落死する女性が相次いだ。都新聞では、ズロースを履いていなかったため、裾を手で抑えるために命綱から手を離さざるを得なかったためだと説明。ズロースの着用を呼びかける記事を書いた。火事から実際にズロースが普及するまでにタイムラグがあるものの、当時の新聞記事が普及させるきっかけを作ったものとして長らく語られるようになった(白木屋ズロース伝説を参照)。
- その後、洋装用の下着として少女や女学生に用いられ、洋装が一般化した第二次世界大戦後はスタンダードな下着として普及する。綿のメリヤス製のズロースは最高級品として日本中を席巻した。ショーツの普及後は、直穿きとしての着用は昭和前半生まれの女性に限られている。現在ではロリータ・ファッションに使われており、ペチパンツの代用に転用されることもある。グンゼなど一部メーカーからは継続販売されている。
次回に続く。
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