【連載】チコちゃんに叱られる! 「なぜ人は手をつなぐ?」の解説は限定的
8月22日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日の話題は以下の通り。
- なぜ人は手をつなぐ?
- 電話で「もしもし」と言うのはなぜ?
- 「素足」と「裸足」なにが違う?
という3つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。
1.の「なぜ手をつなぐ?」について放送では、
を例示した上で「なぜ人は手をつなぐのか? そのわけを考えたことがありますか?」と問題提起された。スタジオからは
- 「一緒にいたいから」「離れたくないから」(ハシヤスメ・アツコさん)
- 「安全を確保するため、道路に出たら車がくるとか、時代を遡れば野生動物がたくさんいた」(あばれる君)
- 「他人と手をつなぐことで不安をやわらげるため。不安や憎しみや悲しみ全部含めて手を取り合って生きていこう」(岡村さん)
という回答があった。チコちゃんは、このうちの「安全を確保するため」に対しては「家の中でもつないでる人がいない?」と反論、また岡村さんの回答はギリギリまで来たがあと一歩であるとして正解としては認めなかった。でもって、放送では、正解は「痛みと不安が弱まるから」であると説明された。
解説は明治大学で脳科学の研究をしている堀田秀吾さん。堀田さんは今回で4回目の登場と伝えられていたが、部分登場を含めると5回目になる
- 【初回放送2023年9月15日】2023年9月16日「“私はワクワクしている”と叫びながら変な踊りを踊れば不安は解消されるか?」
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あくまで私個人の感想であるが、失礼ながら過去5回分での解説はいずれも「胡散臭い」、「イマイチ納得できない」というレベルであった。今回はどうだろうか? ということで堀田秀吾さん&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- 恋人同士や親子、友だち同士など、人は何かと手をつなぎたがるが、実は手をつなぐと精神的な不安や痛みをやわらげるということが色々な研究で分かってきた。
- まずはディレクターと堀田秀吾さんが手をつないだ状態で、番組スタッフがディレクターの手首にしっぺをしたが痛みはやわらがなかった。その理由については「ディレクターと堀田さんの間には恋愛感情や家族愛のような特別な感情が無いからと説明された。
- 2020年、アメリカのスタンフォード大学などが仲の良いカップル・夫婦51組を対象に、脚に熱の刺激を与え、手をつないだ状態とつながない状態とでは痛みに違いが出るかを検証したところ、手をつないだ場合では痛みと不快感が減少したという結果が得られた。
放送では出典は雑誌名と刊行年しか表示されていなかったが、ネットで検索したところ、以下の論文であることが分かった。無料で閲覧可。
●Marianne C Reddan and others(2020). Touch and social support influence interpersonal synchrony and pain. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 15, 1064-1075.
- さらに、この実験では手をつないだときに痛みが少なかった人ほど、脳の報酬系、つまり幸せやリラックスを感じる前頭前野が活発になることが分かった。
- 何かからだに痛みがあると(例えば縫い針を指に刺してしまった場合)、脳内ではまず大量にストレスホルモンが発生する。しかしパートナーと手をつなぐことで愛情ホルモンが大量に現れストレスホルモンを薄めるため、不安や痛みの感覚が弱まる。
- 脳は痛みよりも触るほうが優先順位が高い。
- 人間には、痛い、かゆい、冷たい、触るなどいくつかの感覚があるが、これらは進化の過程で徐々に増えていった。
- 中でも「触る」という感覚は古くから存在した。そのため人間の脳は、同時に複数の刺激を受けると「触る」「痛み」「冷たい」「かゆみ」という優先順位をつけて優先して処理を行う。
- そのため、手をつなぐ(触る)ことは痛みよりも優先され、痛みが和らぐ。
- 子どもが注射をする時に母親が手を握ったりするが、これは手をつないだことで脳のストレスホルモンが減少し、かつ「触る」が「痛い」より優先的に処理されあために痛みがやわらぐと考えられる。
- 痛みの減少具合は、2人の絆の深さや親密さと大きく関連することも分かっている。中でも、共感力が強い女性の方が痛みを和らげる効果が出やすい。
- 番組では濱口優・南明奈夫妻に手をつなぐことで足つぼの痛みが減少するかどうか実験が行われた。南さんは、手をつないでいない状態ではベータ波が大量に発生したが、濱口さんが手をつないだ時はベータ波は生じなかった【但し主観的な痛みの程度は同じ】。また皮膚の電位を比較したところ、手をつないだことでストレス反応が減少したことが確認された。
ここからは私の感想・考察を述べる。冒頭でも述べたように、これまでの堀田秀吾さんの解説は胡散臭いという印象を受けることが多かったが、今回の「手をつなぐ」ことによる痛み軽減効果自体についてはとりあえず納得することができた。
しかし、あばれる君の回答にチコちゃん自身がツッコミを入れたように、家の中でもつないでいる場合もあり、必ずしも「痛みと不安が弱まるから」手をつなぐわけではない。小学校低学年の遠足で手をつなぐのは安全対策であって、別段、つないでいる相手と仲が良いわけではない。また私自身も人や車が多い場所で孫と手をつなぐことが多いが、これまたは交通事故防止やぐれないことが目的となっている。
なので、今回の「なぜ人は手をつなぐか」という疑問に対しては
- 子どもと大人:「安全を確保するため」「はぐれないため」
- 恋人どうし:身体的接触による一体感。愛情ホルモンの分泌。
- 注射、ケガなどの場面:痛みの軽減
というように場合分けをした上で解説すべきであり、たまたま面白い論文があったからと言って、痛みと不安を弱めるという理由だけですべてのケースを説明しようとするのは行きすぎかと思う。
なお手をつなぐことで衝撃を受けた動画【閲覧注意】としたは、
●5 de agosto / Las 13 Rosas - Barricada (HD)
がある。実写ではないと思われるが、手をつなぐことの意味を最も強く表現しているように思う。
次回に続く。
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