じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 早くも1月が半分過ぎてしまったが、我が家ではまだお雑煮を食べている。お餅があまっているからという理由。今年は年末年始に帰省しなかったため、おせち料理は無く、お雑煮もあり合わせの具材で代用された。ま、そうは言っても、自家製のお雑煮が食べられるだけでもありがたいことだ。

※写真右は2016年のお雑煮【福岡県北部バージョン】

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2024年1月15日(月)





【連載】ヒューマニエンス「“左と右” 生命を左右するミステリー」(1)興味深い点と俗説いろいろ

 1月8日に初回放送された、NHK『ヒューマニエンス』、

「“左と右” 生命を左右するミステリー」

についてのメモと感想。

 「左右」を巡る謎については私自身も学生時代から興味を持っており、この日記を始めた頃にも人間界の左と右【さらに続編もあるが未完】という連載に取り組んだことがあった。

 さて、左右をめぐる話題はこれまでも各種テレビ番組でも取り上げられてきた。過去日記を検索したところ、例えば、1998年7月7日の日記では、『たけしの万物創世記』という番組で、
  1. プロポーズするときは女性の左側(左耳)から話しかけたほうが、右脳に働きかけるので成功率が高い。
  2. 論理的に考える時は左下から右上方向にクビをひねることが多い。
  3. 両親がともに右利きの場合、片方が左利きの場合、両方とも左利きの場合それぞれにおいて、子供が左利きになる確率は、順に6.3%、16.7%、50%。
  4. ヤドカリはみな左利き。これは宿を借りる巻き貝の巻き方に依存しているため。
  5. ネコの利き足は半々。
  6. インコは右脳で物まねをする。
といった話題が取り上げられたことがあった【上掲の連載にも再掲】

 また、今回のヒューマニエンスの放送でも取り上げられていたが、肖像画や写真の人物がどちらを向いているのかも興味深い。このことについては2018年12月15日の日記で考察した。

 そのいっぽう、右脳左脳をめぐる問題についてはトンデモ本もいくつか出されており、何でもかんでも脳の機能差にこじつけてしまうといった風潮は正さなければならない。ウィキペディアでも指摘されているように、一般に流布されている俗説の中には科学的な根拠の無いもの、明らかに誤りであるものも含まれており、注意が必要である。いくつか抜粋させていただくと、
  1. 右脳・左脳という言葉は一般語彙であって、学術用語として使われることはない。学術用語としては、右半球・左半球が使われる。
  2. 一般に広く知られる右脳・左脳論とは、左半球が論理的思考の中枢であり、右半球が映像処理、直感や感性、芸術性、創造性を担う、というものであるが、芸術活動をしている最中の脳機能イメージングでは、多くの研究で右半球と左半球両方に活動の増大が認められる。芸術には複数の様々な能力が必要であり、また、創作対象によってどのような能力が必要とされるかも変わってくる。そのため芸術の能力とは何かということを脳科学的に定義することは難しく、脳科学的にそのことを証明するのは難しい。創造性についても同様で、何をもって創造性とするかを脳科学的に定義することは難しい。
  3. 理屈っぽい人物は左脳優位、芸術肌の人物は右脳優位といった俗説があるが、科学的な根拠はない。
  4. 男性=理屈=左脳優位、女性=感覚=右脳優位といった俗説がある一方で、発達心理学者のサイモン・バロン=コーエンは、著書『共感する女脳、システム化する男脳』の中で、男性は平均的に分析能力が高く、女性は平均的に共感能力が高いとし、その理由として、男性は大脳の右半球が早い時期から急速に発達するため空間把握・分析能力が高くなる、一方女性は幼児期の早い段階から言語認知に関して左脳の優位を示すため、コミュニケーションに長けて共感能力が高くなる、としている。(逆の内容となっている。)
  5. 「左半球だけが論理処理をする。」「右半球だけがイメージ処理をする。」というのは誤った俗説である。短時間表示された画像と同一の画像を選択肢から選択する、など画像を扱うテストは右脳が優れている傾向がある、推論処理は左脳が優れている傾向がある、ということを示す研究結果はあるが、優れているというだけであって、片方の脳だけで論理処理、もう片方の脳でイメージ処理を行っている、という結果は示されていない。
  6. 「右脳を鍛える」と称する訓練によって「創造性」が向上するという話は、科学的根拠がない。
  7. スペリーの研究をもとに右脳・左脳論の観念が人々に広まったが、スペリーの研究対象は脳梁の切断手術を受けた患者の脳だけであり、その発見はそうした患者以外には適用できず、スペリー自身もそうした患者以外への適用を否定している。
  8. 科学的根拠に乏しい理論を元に、右脳を鍛えることを謳った教材が散見される。右脳の力を伸ばす教育を掲げる幼稚園、「バイオリンを演奏することで右脳が活性化され学力が向上する」という理由で全員にバイオリンを購入させ、授業のカリキュラムで3年間習わせる私立中学校なども存在する。効果のない商品の説明に使われることがあり、注意が必要である。

 私自身もかつて教養教育科目の授業で指摘したことがあったが、
  • 音楽をたくさん聴くと ★右脳が活性化されて★ 音楽能力がアップする。
  • 論説文をたくさん読むと ★左脳が活性化されて★ 論理的思考力がアップする。 などと、なんでもかんでも脳の活性化にこじつける主張がある。しかし、仮にある訓練とその効果が実証されていた場合、わざわざ「脳の活性化」を持ち出す必要はない。単に「○○すると、××がアップする」だけで十分であり、それが右脳の活性化であれ、左脳の活性化であれ、あるいは肝臓の活性化であれ、つま先の活性化であれ、何ら変わりはなく、上掲の「★___★」部分は冗長な修飾にすぎないと言うことができる。




     以上、いろいろと述べてきたが、左右をめぐる諸問題の中で私が興味を持っているのは、
    1. 左右とは何か? 例えば完全な球体で上下前後左右に自由に移動できる宇宙人に「左右」の概念を説明するとしたらどうすればよいか?
    2. 鏡に映る像はなぜ左右反対となり上下反対にはならないのか? 【2023年2月19日に関連記事あり】
    3. 自然界、人間界における左右の比率の差とその原因
    4. 右脳左脳についての正しい理解と俗説の撲滅
    といった点。もっとも、今回の放送は上掲の話題にはあまり触れられなかった。

     次回に続く。