じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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人間界の左と右(2)

2001年1月5日〜

この連載は、人間界の左と右(1)からの続きです。

参考資料:(2000年9月10日)

左から赤、黄、青と並ぶ交通信号に感激したわたし

参考資料:(2000年9月15日)

カラコルムハイウェイ沿いの岩絵

参考資料:(2000年12月17日)

台北市の信号

【思ったこと】
_10105(金)[心理])人間界の左と右(12)スプーンの内側に映る像その後

 1/3の日記で「平成教育委員会2001!」のクイズ問題に関連して
要するに、実際には、自分の写真を逆さにしたのと同じ見え方をするだけ。写真を逆さにした時には「左右が逆になった」とは言わないはずだ。
と記したところ、付設掲示板で何人かの方からいくつかの情報を寄せていただいた。

 その御指摘により、私は重大な勘違いをしていたことが分かった。それは、スプーンの内側に映る像は、自分の写真を逆さにした見え方ではなく、自分のネガ写真を逆さにした見え方をするということ。あるいは、年賀状のハンコや版画などの図版と刷り上がりの模様との関係にあると言ってもよいかと思う。

 「上下が逆」とか「左右が逆」というのは何を固定軸にするのかによって違ってくるので、いろいろ解釈が出て当然。たとえば「顔の右側にご飯粒がついているよ」と言った時、相手から見て右側なのか、観察者から見て右側なのか聞き返すことがある。鏡の場合でも、右側に手を動かした時に映像も右側に動くならば「左右逆ではない」と言えるが、鏡像がネガ写真のように映っている時はふつうは「左右が逆」という。前にも書いたことがあるが、同じ鏡像でも、車を運転中にバックミラーに映る映像は「左右逆」とは言えない。これは運転操作をする主体側の軸で左右を判断するためだろう。

 このことでふと思ったのだが、立体空間でも四次元以上の空間でも、ある実体(立体あるいはn次元の存在)に対して「鏡像」は一通りしか存在しないのだろうか。立体空間では、「巻き方が逆のネジバナ」、「サカマキガイとモノアラガイ」、「遊園地の遊具」、「中2階のある階段」、キューブパズル、あるいは、分子構造におけるL型とR型のように、ある立体にはかならずそれに対応した鏡像型の立体が存在しうる(結果的に同一になる場合もあるが)。あれって、2本以上の対称軸で回転させるとどうなったんでしたっけ。高校時代に熱中したことがあったのだが、すっかり忘れてしまった。どなたか、雑学サイト(あるいは雑学本)などをご紹介いただければ幸いです。
【思ったこと】
_10106(土)[心理])人間界の左と右(13)賀状のヘビはやはり左向き/ヘビは右巻きか左巻きか?

 2年前の1月8日の日記で賀状に描かれた動物の絵(主としてウサギ)が左右どちらを向いているのか集計したことがあった。その時の内訳は。
  • 左を向いているものが33枚
  • 正面を向いているもの7枚
  • 複数の絵があって両方向を向いているものが8枚
  • 体は左だが顔は右向きのもの1枚(東海版の絵付き年賀葉書・河合重政氏画のもの)
  • これに対して右向きは4枚(うち1枚は、福岡県の「卯歳小倉祇園太鼓」西島伊三雄氏画)にすぎない
であった。今回、干支のヘビの絵について集計してみたところでは
  • 左を向いているもの:16枚
  • 右を向いているもの:6枚
  • 上を向いているもの:1枚
  • 両方を向いているもの(2匹):1枚
となっており、左向きが過半数を占めた。前回記したように
少なくとも右利きの人の場合、動物の横顔は左向きに描いたほうが描きやすいということにあるのではないかと思う。では何故か。これも推測だが、右利きの人が線を描くときには、ふつう左から右に描く。動物を描き始める時に顔から描き始める(シッポやお尻から描き始める人はまず居ないだろう)ので左に鼻先があったほうが描きやすいという理屈。じっさい、私自身も、犬や鳩、ネズミなどの横顔はみな左向きに描いてしまう。
というのが大きな理由ではないかと思う。

 余談だが、蔓状のものには右巻きと左巻きがある。ヘビが木に登るときにはどっち向きに体を巻き付けて登るのだろうか。種によって違うのか、個体によって異なるのか、情報をいただければ幸いです。

[※1/7追記]1/7朝の所さんの目がテン!でちょうどヘビの話題をとりあげていた。登場するヘビが右巻きか左巻きかを分かる範囲でチェックしてみたが、左巻きが3匹(マムシ、タイワンコブラ、シンリンガラガラヘビなど)、右巻きが2匹となっており、種に固有か、個体に固有か、それとも個体でもその時々で巻き方を変えるのかはよく分からなかった。
【思ったこと】
_10107(土)[心理]人間界の左と右(14)スプーンの内側に映る像その後(2)/『もし「右」や「左」がなかったら/「夫婦」の反対語は何か?

 1/3の日記でとりあげたスプーンの内側に映る像に関して、付設掲示でさらにたくさんの情報をいただいた。
  • まず、1/5の日記で「分子構造におけるL型とR型」などといい加減なことを書いたところ、casaさんから
    分子構造における鏡像異性体は、
    「d・l(小文字のエル)」か「R・S」か、「(+)・(-)」で
    表記します。(dlRSはいずれも斜体です)

    これら3種類は互いに異なる方法による区別なので、
    d=R=(+)
    などの関係は成立しません。

    d/lはラテン語の右/左の頭文字で、R/Sは...忘れました。
    +/-は旋光性が時計回り/反時計回りかを示しています。
    という御指摘を受けた。そういえば、むかし生理心理学っぽい文献を読んでいた時に、dアンフェタミンとかエル・ドパミンというような薬物が出てきたことを思い出した。どうもありがとうございました。

    [※追記]こちらに化合物のついての面白い話題があった。同じサイトの中のjunk 辞典には鏡像異性体についての用語解説があった。そのほか『左右を決める遺伝子』(柳沢桂子、講談社ブルーバックス、1997年)という本が面白そう。

  • yoichiさんからは「テナガザル(2歳の)が鏡を見て自己認識できるかどうか」という話題をいただいた。この「自己認識」に関しては、似たようなデザインを用いて、「ハトでも「自己認識」できるやんけえ、ということを示した実験もある。ハトが自己認識しているかどうか確証はないが、鏡に映った像を手がかりとして自分の体の見えない部分をつつくということはできるようだ。

  • 「鏡映像の右と左」の問題については、2000年の7月中旬から下旬にかけて、一部のWeb日記作者のあいだで話題になったことがあった。その時にも発言されていた読書と日々の記録のみちたさんからは以下のような情報をいただいたので紹介させていただく。
    鏡映像の左右の問題には、決定的な本があることがわかりました。

    『鏡の中のミステリ−−左右逆転の謎に挑む−』(高野陽太郎 
    1997 岩波 科学ライブラリー \1000)

    です。この本が決定的である点は、人物像の反転と文字の反転は
    別の現象と考えた方が妥当と洞察した点です。
    さっそく注文させていただきました。
後日寄せられた追加情報
  • ザウエルさんより:左旋性(反時計回り:levorotatory)と右旋性(時計回り: dextrorotatory)のd/lのようですね。失礼しました。
  • casaさんより:
    d/lは、ギリシア語でした。(上のザウエルさんの書き込み通りです)
    R/Sが、ラテン語でした。(rectus/sinistrus)

    実は、体の左右を決めそうな遺伝子が1998年に見つかりました。
    (1997年の本には載っている遺伝子は、その情報を下流に伝える遺伝子です)

    上下・前後・左右の区別が存在しない(まん丸の)受精卵から最終的には左右の区別がある体が形成されるのは、長年の謎でした。
    上下(どっちが頭でどっちがお尻か)と前後(どっらが腹でどっちが背中か)は、自由に決めることができますが、上下・前後が確立した後に決定される左右軸は、自由には決められません。
    (下手な説明でわかりにくいなぁ...)
    その自由に決められない左右軸を間違うことなく決定するには、分子(たぶんタンパク質)の光学活性を利用していると考えられてきました。
    (タンパク質の材料であるアミノ酸は、各2種類ある鏡像異性体のうちの
    1種類しか生体内には[ほとんど]存在しない)
    で、体の左右を決定するのに利用されているタンパク質が見つかったんです。
    このタンパク質(KIF3B)の遺伝子を欠損させたマウスは、半数の個体で心臓が右に位置していたようです。
    (この場合、他の器官の位置も左右が逆になっている)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=9865700&dopt=Abstract



 ここからは別の話題になるが、「左右」概念に関連して、少し前に

『もし「右」や「左」がなかったら〜言語人類学への招待〜』(井上京子、1998、大修館書店、ISBN4-469-21222-9)

という本を読んだことがあった。この本も、どこかのWebサイトの書評を拝見して注文したもの。ネット上での読書情報はたいへん参考になる。この本では
  • 世界中の人々がそれぞれの言語を使って森羅万象を表現するとき、言語ごとに特有な切り取り方がある[まえがき]
  • 「左」「右」の語彙不在がいくつかの言語で確認された。それまで心理学界では、人間の「自己中心的」(egocentric)な空間認知が当然のこととされていたが、実は必ずしもそうではない。言語によっては自分の他に「中心」を置くものもある。[p.6]
などが紹介されている。「左」「右」の語彙が無い人たちは鏡に映った像を見て何が逆になると言うのか、いちど聞いてみたい気がする。

 この本にも「都市部は左右派、農村部は東西派」という章があった。本の内容はタミル族(インド)に関する話だが、我々が東京の23区内を地下鉄で移動するような場合も状況はよく似ているように思う。じっさい地下鉄で移動する際には、東西南北など知らなくても全く支障にならない。「地下鉄○○線の○番の出口を出て、最初の角を右に曲がって何番目のビルの左側」などと表現すれば事足りるのである。いっぽう、山で道に迷った時には磁石がないとひどく苦労する。

 この本ではこのほか、ミラーイメージ、「左右も東西もない世界」、「日本語は左右派か東西派か」など、面白い話題が続いている。第3章の「空間はこうして切り分ける」は鏡像の捉え方にも密接に関連しているように思う。いずれ別の機会に詳しく取り上げたいと思っている。


 もうひとつ、これは全くの余談だが、1/6の夜に子どもたちが「サタ・スマスペシャル」という番組を見ていた。「おなべ」とホンモノの男性を見分けるコーナーで、「おかま」と結婚している「おなべ」が紹介された。戸籍上は「おなべ」が妻で「おかま」が夫ということになっているが、実際の夫婦生活では男性と女性の役割が逆転している。もし「夫婦」の反対語は?と聞かれたら「おなべとおかまの夫婦」というのが正解になるのではないかと、ふと思った。
【思ったこと】
_10626(火)[一般]回転寿司の謎解ける

 夕食時に「たけし・所のWA風が来た!」を見た。この日の話題は「回転寿司」、長年の謎がやっと解決した。

 番組によれば、回転寿司の創始者は元禄寿司グループ会長の白石義明氏(88歳)。客と対面して注文に応じる方式では待たされる客が出てくることなどを解決するために、トランプカードを扇形に開いた様子をヒントにベルトコンベアを水平回転型に改造することに成功、1958年に大阪で一号店、その後大阪万博で人気を博し、ピーク時には240店まで店舗を拡大した。その後1997年には、元禄寿司の登録商標であった「回転寿司」を一般に解放し、いまや国内のみならず海外でも大衆向けの寿司屋の提供形態として定着している。

 回転寿司の機械を実用化する際には、移動速度を毎秒8cmにするなど、さまざまな測定・調整作業が行われた。私が特に注目したのは、回転方向がなぜ右から左(上から見て右回り)に決められたのかという点にあった。3年ほどまえに、この日記で「人間界の左と右」という連載をしたことがあり、98年6月20日の日記で、「右手にはお箸を持っているから、左手でお皿を取りやすいように右回りに決めた」という、りえさんの説を紹介したが、番組もこれと全く同じ説明であり、りえさんの説が裏付けられたことになった。

 ちなみに番組では、ロンドンの「YO! SUSHI」、オーストラリアの「Sushi train」、オランダの「ZUSHI」、店名を忘れたが台湾のミニチュア機関車型の回転寿司屋などが紹介されていたが、このうちロンドンの「YO! SUSHI」だけは、回転方向が左から右(上から見て左回り)になっていた。なぜこの店だけ方向が逆になっているのかは不明。もっとも、箸を使わず手づかみで寿司を食べるのであれば右手で取りやすい(と思われる)左回りのほうが便利であるようにも思える。

 このほか、回転寿司屋が一番多いのは金沢市(回転台の生産シェア最大)、元禄寿司が回転した当時はスプートニクにちなんで「人工衛星」のキャッチフレーズがつけられていたこと、大阪では、タッチパネル付きのディスプレイで注文したり、古い皿を自動的に廃棄するシステムを採用している店があることなどが面白かった。

 種々の飲食店の中でなぜ寿司屋ばかりに回転方式が多いのだろうか(ただし、一部、焼き肉屋でも採用しているという)。いくつか理由を考えてみると、
  • 白石氏が開発した際の動機でもあった「注文しても待たされる」が解消。
  • ネタや分量など、客の多様な好みに応えられる。
  • 客側からみて、いちいち大きな声で注文をする煩わしさが解消。
  • 何を食べているかについてのプライバシーがある程度守られる。
  • 現物を見てから手に取れるので安心できる。
  • 皿の数で値段が決まるので心配が無い。
  • 価格が均一(せいぜい5段階程度)であるので、同じ値段の中から好きなものを選んでいるという「能動的選択感」が出てくる。
  • ネタの名前を知らなくても、見た目で選択できる。
  • 小皿に分けられているので、食べ残しが少なく、コストの削減につながる。
  • 焼き物、煮物などのように暖かさを保つ必要が無いので、一定時間コンベアの上に置き続けることができる。
これらすべてを見通した上で回転寿司を考案されたとしたらスゴイ発明だったと思う。20世紀の10大発明(飲食業部門)という企画があれば、必ず含まれるのではないかと思う。
参考資料:(2001年9月1日)

カナダの交通信号

参考資料:(2001年9月3日)

カナダ・イエローナイフで見た車の広告

9/6の日記に追記があります。
【思ったこと】
_20105(土)[一般]人間界の左と右(15)馬はやっぱり左向き

 1999年1月8日の日記で、
正月に私が受け取った年賀状のなかで動物の絵が描かれてあったのは全部で53枚あったが、そのうちの33枚(62.3%)は左を向いており、右向きの4枚(7.5%)より圧倒的に多いことが分かった。
と書いた。ウマ年の今年はどうなっているか、1月5日までに私が受け取った61枚(宣伝目的の賀状を含む)について調べてみたところ、
  • 左向き:17枚
  • 右向き:2枚
  • 正面向き:3枚
  • 両方(2頭以上):2枚
  • ウマの絵なし:37枚
となっており、やはり左向きが圧倒的に多いことが分かった。ウマの絵が描いてある年賀状24枚のなかでは71%に達していた。
※上記の「左向き」「右向き」は、こちらから賀状を見た時の顔の向き。体が右向きでも鼻先が左を向いている場合は「左向き」にカウントした。

 左向きが多い理由については、1999年1月8日の日記及び1999年1月22日の日記で考察した通りであろうと思う。

 この点で未だに謎なのが、一昨年、カラコルムハイウェイ沿いのインダス川河岸で見た岩絵である。2000年9月15日の日記の写真にも示すように、このあたりの岩絵では右向きの動物の絵が多かった。2001年12月25日に放映されたネイチュアリングスペシャル「世界初取材“地球最後の秘境”ワハーン」という番組でもキャラバン12日目、オクサス川を渡る直前にアイベックスなどの動物の岩絵が紹介されたが5頭中4頭はやはり右を向いていた。あるいは、右から左に文字をつなげるアラビア語の影響かとも思うが、私自身が見たのはむしろ仏教風の図柄が多かった。仏教圏で文字を右から左に横書きするというのは聞いたことが無いのだが、どうなっているのだろうか。

1/6追記]昨年のヘビの絵柄についてのデータが2001年1月6日の日記にあります。

この連載は、さらに続きます。